自己株式の消却の手続きと会計処理

自己株式の消却とは

自己株式の消却とは、会社が保有する自社の株式(自己株式;金庫株)のうち、特定の株式を消滅させることをいいます。

 

法律上の手続き・事務手続き

会社法の規定

自己株式の消却については、会社法178条に規定があります。

会社法

第六款 株式の消却

第百七十八条

1 株式会社は、自己株式を消却することができる。この場合においては、消却する自己株式の数(種類株式発行会社にあっては、自己株式の種類及び種類ごとの数)を定めなければならない。
2 取締役会設置会社においては、前項後段の規定による決定は、取締役会の決議によらなければならない。

また、自己株式の消却は発行済株式総数の減少を伴うため、登記に関する規定も参照する必要があります。

会社法

(変更の登記)
第九百十五条
1 会社において第九百十一条第三項各号又は前三条各号に掲げる事項に変更が生じたときは、二週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない。

 

(株式会社の設立の登記)
第九百十一条
3 第一項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。
九 発行済株式の総数並びにその種類及び種類ごとの数

手続きの流れ

1.消却する自己株式の数・種類の決定

  • まず、会社は、消却する自己株式の数を決定します(会社法178条1項)。種類株式発行会社の場合は、消却する自己株式の種類及び種類ごとの数を決定しなければなりません(同項)。
  • 取締役会設置会社においては、自己株式の消却の決定は、取締役会の決議によらなければなりません(同条2項)。株主総会の決議を不要とした理由は、自己株式の消却は既存株主に不利益を与えるおそれが少ないためです。
  • 取締役会非設置会社においては、自己株式の消却の決定機関について、明文の規定はありません。この点につき、次の2つの見解があります。
    • 株主総会の普通決議が必要である」とする説。理由は、会社法制定以前、有限会社における持分の消却に社員総会決議が要求されていたことから、これに準じて手続きをすべきため。この説を主張するのは、江頭憲治郎『株式会社法(第6版)』。
    • 取締役の過半数の決定(会社法348条2項)で足りる」とする説。理由は、①会社法に明文の規定がなく、②重要な決定といえないため。この説を主張するのは、『会社法コンメンタール〈4〉株式〈2〉』[伊藤雄司]。
  • 上場会社の場合は、取締役会の決議後、速やかに、適時開示を行います。なお、東京証券取引所の有価証券上場規程には「自己株式の消却」は重要事実として列挙されておりませんので(有価証券上場規程(東京証券取引所)第402条、日本取引所グループ|会社情報の適時開示制度参照)、会社が重要事実でないと判断すれば、適時開示を行わないことも考えられます。しかしながら、自己株式の消却は株価に影響を与える情報であるため、軽微なものでない限りは、適時開示するのが通常だと考えられます。
  • 株式等振替制度を利用している会社(主に上場会社)の場合は、決議後(適時開示を行う場合にはその後)速やかに、証券保管振替機構(ほふり)に対して通知手続きを行う必要があります(証券保管振替機構|振替株式の発行者|4.自己株式の消却参照)
  • 証券保管振替機構(ほふり)への通知とは別に、自己株式を記録している口座を開設している証券会社に対しても、連絡する必要があります。

2.消却する株式を特定する意思表示(効力発生日)

  • 会社は、消却する株式を特定する意思を表示する必要があります。例えば、株主名簿から消却した自己株式に関する事項を抹消する、株券発行会社であれば株券を破棄する、などです。
  • こうして会社の何らかの行為によって消却する株式が特定されない限り、消却の効力が生じるのを認めようがないといえます(東京地判平成2年3月29日)。
  • 会社が「消却する株式を特定する意思を表示」した日が、自己株式の消却の効力発生日となる、と考えられます。なお、実務上は、先ず取締役会の決議で効力発生日を決定してから、その日に「消却する株式を特定する意思を表示」するケースが普通のようです。
  • 上場準備会社で、株主名簿管理人(証券代行会社)に株主名簿の管理を委託している場合は、株主名簿管理人に通知して、株主名簿から消却した自己株式に関する事項を抹消します。
  • 株式等振替制度を利用している会社(主に上場会社)の場合は、証券保管振替機構の非営業日(土・日・祝日等)を効力発生日とすることができません(証券保管振替機構|振替株式の発行者|4.自己株式の消却参照)。参考に、「社債、株式等の振替に関する法律」の関係する規定を掲載します。

社債、株式等の振替に関する法律

(株式の消却に関する会社法の特例)
第百五十八条
1 発行者が自己の振替株式を消却しようとするときは、当該振替株式について抹消の申請をしなければならない。
2 振替株式の消却は、第百三十四条第四項第一号の減少の記載又は記録がされた日にその効力を生ずる。

 

(抹消手続)
第百三十四条
1 特定の銘柄の振替株式について、抹消の申請があった場合には、振替機関等は、第四項から第六項までの規定により、当該申請において第三項の規定により示されたところに従い、その備える振替口座簿における減少の記載若しくは記録又は通知をしなければならない。
2 前項の申請は、発行者が、抹消によりその口座(顧客口座を除く。)において減少の記載又は記録がされる口座を開設した直近上位機関に対して行うものとする。
3 発行者は、第一項の申請において、抹消により減少の記載又は記録がされるべき振替株式の銘柄及び数を示さなければならない。
4 第一項の申請があった場合には、当該申請を受けた振替機関等は、遅滞なく、次に掲げる措置を執らなければならない。
一 発行者の口座の保有欄における前項の数についての減少の記載又は記録
二 当該振替機関等が口座管理機関である場合には、直近上位機関に対する前項の規定により示された事項の通知
5 前項第二号の通知があった場合には、当該通知を受けた振替機関等は、直ちに、次に掲げる措置を執らなければならない。
一 当該通知をした口座管理機関の口座の顧客口座における第三項の数についての減少の記載又は記録
二 当該振替機関等が口座管理機関である場合には、直近上位機関に対する前項第二号の規定により通知を受けた事項の通知
6 前項の規定は、同項第二号(この項において準用する場合を含む。)の通知があった場合における当該通知を受けた振替機関等について準用する。

3.自己株式の消却後の登記手続き

  • 消却した株式の数だけ、会社の発行済株式総数が減少します。発行済株式総数が減少するため、その効力発生日から2週間以内に、本店所在地において、発行済株式総数の変更にかかる登記を行う必要があります(会社法915条1項、911条3項9号)。
  • 定款所定の発行可能株式総数(授権枠)は、当然には減少しません。

 

会計処理

会計基準

自己株式の消却の会計処理については、「企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」に規定されています。

自己株式の消却

自己株式を消却した場合には、消却手続が完了したときに、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額します(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第11項)。

会計理論上の論点として、消却の対象となった自己株式の帳簿価額を、資本剰余金から減額する(「払込資本の払戻し」と考える)か、利益剰余金から減額する(「株主に対する会社財産の分配」と考える)かが問題となります。この点、「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」では、会社計算規則第24条第3項の規定(優先的にその他資本剰余金から減額する規定)に合わせ、その他資本剰余金から減額することとしました(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第44・45項参照)。

消却手続を完了していない自己株式が貸借対照表日にある場合

自己株式の消却を取締役会等で意思決定しただけでは、法的に発行済株式数が減少するわけではないため、消却手続が完了したときに自己株式の消却の会計処理をします(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第46項参照)。

ただし、取締役会等による会社の意思決定によって自己株式を消却する場合に、決議後消却手続を完了していない自己株式が貸借対照表日にあり、当該自己株式の帳簿価額又は株式数に重要
性があるときであって、かつ、連結株主資本等変動計算書又は個別株主資本等変動計算書の注記事項として自己株式の種類及び株式数に関する事項を記載する場合(企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」第9項(1)②及び(2))には、決議後消却手続を完了していない自己株式の帳簿価額種類及び株式数を当該事項に併せて注記します(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第22項)。

その他資本剰余金の残高が負の値になった場合の取扱い

上記の会計処理の結果、その他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、会計期間末において、その他資本剰余金を零とし、当該負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額します(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第12項)。

その他資本剰余金を零とする理由は、その他資本剰余金は、払込資本から配当規制の対象となる資本金及び資本準備金を控除した残額であり、払込資本の残高が負の値となることはあり得ない以上、払込資本の一項目として表示するその他資本剰余金について、負の残高を認めることは適当ではないためです。よって、その他資本剰余金が負の残高になる場合は、利益剰余金で補てんするほかないと考えられ、それは資本剰余金と利益剰余金の混同にはあたらないと判断されます(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第41項)。

また、その他資本剰余金の残高を超える自己株式処分差損が発生した場合の会計処理については、「負の値となったその他資本剰余金を、その都度、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)で補てんし、その残高を確定する方法 」が考えられます。しかしながら、これについては、その他資本剰余金の額の増減が同一会計期間内に反復的に起こり得ること、そして、その他資本剰余金の額の増加と減少の発生の順番が異なる場合に結果が異なることなどを理由に、「(2)負の値となったその他資本剰余金を、会計期間末において、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)で補てんし、その残高を確定する方法 」が適切と考えました(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第42項)。

したがって、例えば、中間決算日又は会社法における臨時決算日(会社法第441条第1項)において、その他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、中間決算等において、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)で補てんすることとなります。また、年度決算においては、中間決算等における処理を洗替処理することとなります(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第42項)。

自己株式の処分及び消却時の帳簿価額の算定

自己株式の処分及び消却時の帳簿価額は、会社の定めた計算方法に従って、株式の種類ごとに算定します(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第13項)。

会計基準では、計算方法については、「会社の定めた計算方法に従って」と規定されているだけで、特に限定されておりません。

また、会計基準では「会社の定めた計算方法に従って、株式の種類ごとに算定する」と規定されておりますので、移動平均法、総平均法、個別法等いくつかの方法を、自己株式の種類ごとに選択適用することが認められている、と考えられます。

自己株式の消却に関する付随費用

自己株式の消却に関する付随費用は、損益計算書の営業外費用に計上します(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第14項)。

これは、付随費用を財務費用と考え、損益取引とする方法です。付随費用を財務費用とする考えは、付随費用は株主との間の資本取引ではない点に着目し、会社の業績に関係する項目であるとの見方に基づきます(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第51項参照)。

一方、国際的な会計基準で採用されている方法によれば、消却時の費用は自己株式処分差額等の調整(その他資本剰余金の増減)とします。これは、付随費用を自己株式本体の取引と一体と考え、資本取引とする方法です。この考えは、自己株式の消却時の付随費用は、形式的には株主との取引ではないが、自己株式本体の取引と一体であるとの見方に基づいております(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第52項参照)。

なお、自己株式の消却に関する付随費用(消却のための手数料等)としては、登記事項の変更に伴う登録免許税や司法書士に支払う報酬などが考えられます。

会社計算規則

自己株式の消却の会計処理については、会社計算規則24条に規定があります。

会社計算規則

第六款 株式の消却

第二十四条

1 株式会社が当該株式会社の株式を取得する場合には、その取得価額を、増加すべき自己株式の額とする。
2 株式会社が自己株式の処分又は消却をする場合には、その帳簿価額を、減少すべき自己株式の額とする。
3 株式会社が自己株式の消却をする場合には、自己株式の消却後のその他資本剰余金の額は、当該自己株式の消却の直前の当該額から当該消却する自己株式の帳簿価額を減じて得た額とする。

仕訳例

自己株式を消却したとき(消却時)

(例)消却した自己株式の帳簿価額が100の場合

(借方)その他資本剰余金 100 (貸方)自己株式 100

その他資本剰余金がマイナスとなった場合の仕訳(期末)

(例)その他資本剰余金の期末残高が△50のとき

(借方)繰越利益剰余金 50 (貸方)その他資本剰余金 50

この仕訳により、その他資本剰余金の期末残高がゼロとなる。

繰越利益剰余金から減額する仕訳は、必ず期末に行います(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第12項参照)

よって、自己株式の消却時に繰越利益剰余金から減額する仕訳は、間違いです。

 

参考文献

企業会計基準委員会『企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準』2015年

髙橋美加他『会社法』弘文堂・2016年

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