ゴーンが逮捕されても、監査法人の責任が問われない理由

日産自動車のカルロス・ゴーン会長が東京地検特捜部に逮捕されました。

容疑は、金融商品取引法違反です。内容は、有価証券報告書の役員報酬の金額の虚偽記載です。

 

このニュースで、「監査法人の責任が問われる」とか「監査法人から逮捕者が出るかもしれない」とか言っている評論家やコメンテーターが多いです。

こいつらは、有価証券報告書を読んだことがないのでしょう。

 

日産自動車の有価証券報告書を読めば分かりますが、監査法人の責任が問われることは99%ありません

その理由を、これから説明したいと思います。

 

なお、日産自動車の有価証券報告書は日産自動車のIRサイトで読めます。

 

今回は、平成30年(2018年)3月期の有価証券報告書を見ていきます。

 

監査法人の監査対象は「経理の状況」だけ

まずは、有価証券報告書の最後の方に付いている「監査報告書」を読んでいきましょう。

連結財務諸表に対する「独立監査人の監査報告書及び内部統制監査報告書」の文言はこちらです。

<財務諸表監査>
当監査法人は、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づく監査証明を行うため、「経理の状況」に掲げられている日産自動車株式会社の平成29年4月1日から平成30年3月31日までの連結会計年度の連結財務諸表、すなわち、連結貸借対照表、連結損益計算書、連結包括利益計算書、連結株主資本等変動計算書、連結キャッシュ・フロー計算書、連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項、その他の注記及び連結附属明細表について監査を行った。

単体財務諸表に対する「独立監査人の監査報告書」の文言はこちらです。

当監査法人は、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づく監査証明を行うため、「経理の状況」に掲げられている日産自動車株式会社の平成29年4月1日から平成30年3月31日までの第119期事業年度の財務諸表、すなわち、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、重要な会計方針、その他の注記及び附属明細表について監査を行った。

監査法人の監査対象は「経理の状況」で、それ以外は監査対象ではないことが分かります。

ただ実際は、監査法人は監査するときに、「経理の状況」以外の箇所も読んでいます。「経理の状況」以外の箇所の数字に誤りがあれば、会社に対して指摘します。でも、オフィシャルには、「経理の状況」しか監査していないことになっています。

 

有価証券報告書の虚偽記載があったのは「提出会社の状況」

今回虚偽記載が問題となったのは、役員の報酬の虚偽記載です。

 

次に、有価証券報告書の目次をご覧ください。

役員の報酬が記載されている箇所は、「第4【提出会社の状況】」の「6【コーポレート・ガバナンスの状況等】」です。

先ほど述べた通り、監査法人の監査対象は「第5【経理の状況】」です。

つまり、「第4【提出会社の状況】」の「6【コーポレート・ガバナンスの状況等】」は、監査法人の監査対象外です。

したがって、役員の報酬の虚偽記載について、監査法人が責任を負うことはありません。

 

「経理の状況」に虚偽記載はあるのか。

「経理の状況」を見ていきましょう。

連結損益計算書にも、単体の損益計算書にも、「役員報酬」の勘定科目はありません。

平成30年(2018年)3月期の役員報酬は約20億円です(「第4【提出会社の状況】」の「6【コーポレート・ガバナンスの状況等】」より)。

それに対し、単体の損益計算書の販管費(販売費及び一般管理費)の金額は約3400億円です。

仮に、役員報酬の金額が30億円に修正されたとしても、販管費の総額の10%以下ですから、「役員報酬」という科目を設けて独立掲記する必要はありません。

したがって、「経理の状況」が訂正されることはなく、結果として「経理の状況」の虚偽記載はないということになります。

「経理の状況」の虚偽記載がない以上、監査法人の責任が問われることはありません。


監査基準の設定について(平成14年1月25日)

監査基準の改訂について

平成14年1月25日

企業会計審議会

一 経緯

1 審議の背景

公認会計士(監査法人を含む。)による財務諸表の監査(以下「公認会計士監査」という。)は、財務諸表の信頼性を担保するための制度であり、その規範となる監査基準は、財務諸表の作成規範である会計基準とともに、適正なディスクロージャーを確保するための重要なインフラストラクチャーである。

我が国の監査基準は、証券取引法に基づく公認会計士監査が昭和25年に導入されたことに伴い、「監査基準」及び「監査実施準則」という構成で設けられ、その後、昭和31年には正規の監査の実施に伴い「監査報告準則」も加わって今日の監査基準の構成が固まった。また、昭和40年から41年にかけて粉飾決算事件の発生等に対処する「監査実施準則」及び「監査報告準則」の大幅な改訂、昭和57年には企業会計原則の一部修正に伴う改訂、昭和58年には後発事象に関する改訂が行われた。さらに、平成元年から平成3年にかけての「監査基準」、「監査実施準則」及び「監査報告準則」の改訂においては、いわゆるリスク・アプローチの考え方が採用され、新たな内部統制概念の導入、監査報告書における特記事項の記載、経営者確認書の入手の義務づけ等による監査基準の充実強化と個別具体的な監査手続の削除による監査基準の純化が図られたところである。直近では、平成10年に、キャッシュ・フロー計算書が証券取引法上の財務諸表に加えられたことに対応して若干の改訂が行われ、現在の監査基準となっている。

平成3年の監査基準の改訂から既に10年余が経過しており、我が国企業の活動の複雑化や資本市場の国際的な一体化を背景として、公認会計士監査による適正なディスクロージャーの確保とともに、公認会計士監査の質の向上に対する要求が国際的にも高まっている。さらに、最近、経営が破綻した企業の中には、直前の決算において公認会計士の適正意見が付されていたにも関わらず、破綻後には大幅な債務超過となっているとされているものや、破綻に至るまで経営者が不正を行っていたとされるものもある。こういった事態に対し、なぜ、公認会計士監査でこれらを発見することができなかったのか、公認会計士監査は果たして有効に機能していたのか等の厳しい指摘や批判が行われている。

このような状況を背景として、平成11年10月に開催された当審議会総会において、「監査基準等の一層の充実」を審議事項とすることが決定され、第二部会において審議が行われることとなった。

2 審議の経緯

当審議会では、国際的な監査基準の動向をも踏まえ、「監査基準」、「監査実施準則」及び「監査報告準則」全般にわたって改訂すべき事項について網羅的に検討を行い、平成12年6月に「監査基準等の一層の充実に関する論点整理」(以下「論点整理」という。)を公表した。

論点整理では、企業が公表する財務諸表に対して公認会計士が独立の立場から実施する監査について、その信頼性の一層の向上を各方面から求められていることが明らかになったとの認識が示された。その背景を要約すれば、(1)過剰流動性が現出させた飽和経済の崩壊に伴う企業破綻、あるいは信用力の低下が、企業の公表する財務諸表だけでなく、その信頼性に関し独立の立場から職業的専門家としての意見を表明する監査の機能に対しても批判を引き起こしたこと、(2)近年の情報技術(IT)の高度化は世界的な規模での市場経済化を促し、資本市場ならびに企業活動の国際化も進展させ、企業が公表する財務諸表の監査に対しても、国際的な水準での機能向上が求められていることが挙げられる。

このような認識に基づき、我が国のコーポレート・ガバナンスの変化や国際的な監査基準の展開をも視野に入れ、監査基準の具体的な改訂について審議を行った。平成13年6月には、財務諸表の重要な虚偽の表示の原因となる不正を発見する姿勢の強化、ゴーイング・コンサーン(継続企業の前提)問題への対処、リスク・アプローチの徹底、新たな会計基準への対応及び監査報告書の充実を図ることを改訂の重要なポイントとし、前文を含め監査基準を全面的に見直した「監査基準の改訂に関する意見書(公開草案)」を公表して、広く各界の意見を求めた。当審議会は、寄せられた意見を参考にしつつ更に審議を行い、公開草案の内容を一部修正して、これを「監査基準の改訂に関する意見書」として公表することとした。

二 改訂基準の性格、構成及び位置付け

1 改訂基準の性格

監査基準の基本的性格は、昭和25年に我が国に監査基準が設けられた折、「監査基準は、監査実務の中に慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを帰納要約した原則であつて、職業的監査人は、財務諸表の監査を行うに当り、法令によつて強制されなくとも、常にこれを遵守しなければならない。」と明示されたところであり、今日においても、その性格は変わるものではない。

しかし、前述のように、近年、資本市場や企業活動の国際化、企業が採用する情報技術の高度化、さらに連結財務諸表原則の改訂を初めとする会計基準の改訂や新設など、我が国における公認会計士監査をめぐる環境は大きく変貌している。これらの動きに対応して、監査人個々人のみならず監査事務所などの組織としても監査の実施体制を充実し、さらに監査の質の管理と向上に注意を払う必要性が認識されているところであり、また、これらは国際的な動向とも歩調を合わせることが求められている。

一方、国民経済的な視点からは、市場経済が一層の進展を見せ、いわゆる投資者の自己責任原則が種々の方面で徹底されるようになるにつれ、企業が公表する財務情報の信頼性の確保について、従来とは比較できないほどに社会の期待と関心が高まっている。当然に、公認会計士監査に対しても、その充実が求められている。

このような背景を踏まえ、今般の改訂では、単に我が国の公認会計士監査の最大公約数的な実務を基準化するという方針ではなく、将来にわたっての公認会計士監査の方向性を捉え、また、国際的にも遜色のない監査の水準を達成できるようにするための基準を設定することを目的としている。さらに、公認会計士監査に対する社会の種々の期待に可能な範囲で応えることも改訂基準の意図したところである。

2 改訂基準の構成

今般の改訂では、諸外国のように各項目ごとに個々の基準を設けるという形式は採らず、一つの基準とする形式は維持することとしたが、「監査実施準則」及び「監査報告準則」を廃止し、監査基準という一つの枠組みの中で、一般基準、実施基準及び報告基準の区分とした。その上で、実施基準及び報告基準について基本原則を置くとともに、項目を区分して基準化する方法を採った。
「監査実施準則」及び「監査報告準則」は、監査慣行が十分に確立していない状況において、抽象的な監査基準を補足するものとして設けられたという経緯がある。平成3年の監査基準の改訂において、「監査実施準則」の純化が大幅に行われ、監査基準を補足する具体的な指針を示す役割は日本公認会計士協会に委ねられることとなった。その後、日本公認会計士協会から、逐次、監査に係る具体的な指針が公表され、相当の整備が行われている。このような状況を踏まえると、各準則の位置付けが曖昧なものとなることから、各準則を廃止し、監査基準とこれを具体化した日本公認会計士協会の指針により、我が国における一般に公正妥当と認められる監査の基準の体系とすることが適切と判断した。なお、改訂基準の解釈にあたっては、この前文に示された趣旨を含めて理解することが必要である。

3 監査基準の位置付け

改訂基準における監査の目的が示す枠組み及びこれから引き出されたそれぞれの基準は、証券取引法に基づく監査のみならず、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律に基づく監査など、財務諸表の種類や意見として表明すべき事項を異にする監査も含め、公認会計士監査のすべてに共通するものである。

一方、監査に類似する証明の業務としていわゆるレビューがある。レビューは、諸外国では、財務諸表には会計基準に照らして特に修正を要する重要な事項は見当たらなかったことを、限定した手続により消極的に証明する業務であるとされており、財務諸表全体が適正であるかどうかについて意見の表明を行う監査とは、その保証水準を明確に異にするものである。したがって、レビューが監査の一環又は一部であると誤解され、監査と混同されると、却って監査に対する信頼を損ねる虞が生じることから、レビューについては監査基準の対象としていない。このような消極的な証明を行う業務については、種々異なる需要があるので、日本公認会計士協会が適切な指針を作成する方が、実務に柔軟に対応することができると考えられる。

三 主な改訂点とその考え方

1 監査の目的

従来、監査基準は監査それ自体の目的を明確にしてこなかったために、監査の役割について種々の理解を与え、これがいわゆる「期待のギャップ」を醸成させてきたことは否めない。また、監査の目的を明確にすることにより、監査基準の枠組みも自ずと決まることになる。このような趣旨から、改訂基準において監査の目的を明らかにすることとしたが、その内容については、以下の点に留意して理解することが必要である。

(1) 監査の目的は、経営者の作成した財務諸表に対して監査人が意見を表明することにあり、財務諸表の作成に対する経営者の責任と、当該財務諸表の適正表示に関する意見表明に対する監査人の責任との区別(二重責任の原則)を明示した。

(2) 監査人が表明する意見は、財務諸表が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を表明したものであることを明確にした。

(3) 改訂基準では、基本的な構成からなる財務諸表に対する監査を前提として、財務諸表が企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適正に表示しているかどうかについて意見を表明するとしているが、監査の対象となる財務諸表の種類、あるいは監査の根拠となる制度や契約事項が異なれば、それに応じて、意見の表明の形式は異なるものとなる。

(4) 適正意見と虚偽の表示との関係について、監査人が財務諸表は適正に表示されているとの意見を表明することには、財務諸表には全体として重要な虚偽の表示がないことの合理的な保証を得たとの自らの判断が含まれていることを明確にした。

(5) 合理的な保証を得たとは、監査が対象とする財務諸表の性格的な特徴(例えば、財務諸表の作成には経営者による見積りの要素が多く含まれること)や監査の特性(例えば、試査で行われること)などの条件がある中で、職業的専門家としての監査人が一般に公正妥当と認められる監査の基準に従って監査を実施して、絶対的ではないが相当程度の心証を得たことを意味する。

なお、監査報告書における適正意見の表明は、財務諸表及び監査報告書の利用者からは、結果的に、財務諸表には全体として重要な虚偽の表示がないことについて、合理的な範囲での保証を与えているものと理解されることになる。

2 一般基準の改訂について

近年の監査を巡る環境の変化は、従来の一般基準により監査人に求められていた専門的能力や実務経験、独立性、公正不偏性、注意義務などの要件を一層徹底させ、また、監査人の自主的かつ道義的な判断や行動に任せていた点を制度的に担保する方向へと動かすものとなっていることも事実である。それらの現代的な動向は従来の監査基準では必ずしも十分に反映されていなかったので、改訂基準は以下の点でこれを改めることとした。

(1) 専門的能力の向上と知識の蓄積

監査人は、近年の資本市場の国際化、企業の大規模化や取引活動の複雑化、会計処理の技術的進展、会計基準の高度の専門化などに対応するために、職業的専門家としての能力の維持・研鑚に努め、実務経験を積み、これらの能力や知識を監査の実務に活かすことにより、これまで以上に監査に対する社会の期待に応えることが求められている。

(2) 公正不偏の態度と独立性の保持

監査人は、監査の実施に当たって、精神的に公正不偏の態度を保持することが求められ、独立性の保持を最も重視しなければならない。そのため、公正不偏な態度に影響を及ぼす可能性という観点から、独立の立場を損なう特定の利害関係を有することはもとより、このような関係を有しているとの疑いを招く外観を呈することがあってはならないことを明確にした。

(3) 職業的懐疑心

監査人としての責任の遂行の基本は、職業的専門家としての正当な注意を払うことにある。その中で、監査という業務の性格上、監査計画の策定から、その実施、監査証拠の評価、意見の形成に至るまで、財務諸表に重要な虚偽の表示が存在する虞に常に注意を払うことを求めるとの観点から、職業的懐疑心を保持すべきことを特に強調した。

(4) 不正等に起因する虚偽の表示への対応

財務諸表の虚偽の表示は、経営者による会計方針の選択や適用などの際の判断の誤りのみならず事務的な過誤によってももたらされるが、重要な虚偽の表示の多くは、財務諸表の利用者を欺くために不正な報告(いわゆる粉飾)をすること、あるいは、資産の流用などの行為を隠蔽するために意図的に虚偽の記録や改竄等を行うことに起因すると考えられる。そこで、監査人はこのような不正等について特段の注意を払うとともに、監査の過程において不正等を発見した場合には、経営者等に適切な対応を求めるとともに、その財務諸表への影響について評価することを求めることとした。

なお、違法行為については、それ自体を発見することが監査人の責任ではなく、その判断には法律の専門的な知識が必要となることも多い。また、違法行為は必ずしも財務諸表の重要な虚偽の表示の原因となるものではないが、監査人が重要な虚偽の表示につながる虞のある違法行為を発見した場合には、不正等を発見した場合に準じて適切な対応をとることになる。

(5) 監査調書

企業の大規模化や企業活動の複雑化は、とりもなおさず監査人の膨大な作業と高度な判断を要求するが、それらの作業や判断の質を自らあるいは組織的に管理するためには、監査調書の作成が不可欠である。また、監査人は自らの責任を問われるような事態に対処し、説明責任を果たすためにも、監査計画の策定から意見の形成に至るまでの監査全体について、判断の過程も含めて記録を残すことを求めることとした。なお、今後、コンピュータを利用して監査調書を作成することも視野に入れ、特に、文書による保存という表現は用いていない。

(6) 監査の質の管理

財務諸表の監査に携わる監査人に対して、自らの監査業務の質の確保に十全な注意を払うとともに、組織としても監査業務の質を担保するための管理の方針と手続を定め、さらに、その実効性の確認までを求めることを明確にした。監査業務の質の確保は、監査補助者の監督、他の監査人の監査結果の利用などに関しても同様に求められるものである。また、監査業務の質の確保には、新規に監査契約を締結する際における調査や前任監査人との引き継ぎ等も含まれる。

(7) 守秘義務

監査人が監査業務上知り得た事項を正当な理由なく他に漏らしたり、窃用することは、職業倫理の上から許されないことは当然であり、そのような行為は監査を受ける企業との信頼関係を損ない、監査業務の効率的な遂行を妨げる原因ともなりかねないことから、敢えて一般基準の一つとして維持することとした。ただし、監査人の交代に当たっての前任監査人からの引継ぎ、親子会社で監査人が異なるときに親会社の監査人が子会社の監査人から情報を入手すること、監査の質の管理のために必要な外部の審査を受けることなどは監査業務の充実に関連することであり、そのような場合には、関係者間の合意を得るなどにより、守秘義務の解除を図る必要がある。

3 リスク・アプローチの明確化について

(1) リスク・アプローチの意義

平成3年の監査基準の改訂でリスク・アプローチの考え方をとり入れたところであるが、なおも我が国の監査実務に浸透するには至っていない。その原因の一端は監査基準の中でリスク・アプローチの枠組みが必ずしも明確に示されなかったことにもある。しかし、リスク・アプローチに基づく監査は、重要な虚偽の表示が生じる可能性が高い事項について重点的に監査の人員や時間を充てることにより、監査を効果的かつ効率的なものとすることができることから、国際的な監査基準においても採用されているものである。我が国の監査実務においてもさらなる浸透を図るべく、改訂基準ではリスク・アプローチに基づく監査の仕組みをより一層明確にした。

(2) リスクの諸概念及び用語法

従来「監査上の危険性」としていた用語を国際的な用語法に改めて「監査リスク」とし、固有リスク、統制リスク、発見リスクという三つのリスク要素と監査リスクの関係を明らかにすることとした。監査実務において、これらのリスクは、実際には複合的な状態で存在することもあり、必ずしも明確に切りわけられるものではないが、改訂基準ではリスク・アプローチの基本的な枠組みを示すことを主眼としており、実際の監査においてはより工夫した手続が用いられることになる。なお、改訂基準におけるこれらの用語は以下の意味で用いられている。

①「監査リスク」とは、監査人が、財務諸表の重要な虚偽の表示を看過して誤った意見を形成する可能性をいう。

②「固有リスク」とは、関連する内部統制が存在していないとの仮定の上で、財務諸表に重要な虚偽の表示がなされる可能性をいい、経営環境により影響を受ける種々のリスク、特定の取引記録及び財務諸表項目が本来有するリスクからなる。

③「統制リスク」とは、財務諸表の重要な虚偽の表示が、企業の内部統制によって防止又は適時に発見されない可能性をいう。

④「発見リスク」とは、企業の内部統制によって防止又は発見されなかった財務諸表の重要な虚偽の表示が、監査手続を実施してもなお発見されない可能性をいう。

(3) リスク・アプローチの考え方

リスク・アプローチに基づく監査の実施においては、監査リスクを合理的に低い水準に抑えることが求められる。すなわち、監査人の権限や監査時間等には制約もある中で、財務諸表の利用者の判断を誤らせることになるような重要な虚偽の表示を看過するリスクを合理的な水準に抑えることが求められるのである。このため、固有リスクと統制リスクとを評価することにより、虚偽の表示が行われる可能性に応じて、監査人が自ら行う監査手続やその実施の時期及び範囲を策定するための基礎となる発見リスクの水準を決定することが求められる。例えば、固有リスク及び統制リスクが高い(虚偽の表示が行われる可能性が高い)と判断したときは、自ら設定した合理的な監査リスクの水準が達成されるように、発見リスクの水準を低く(虚偽の表示を看過する可能性を低く)設定し、より詳細な監査手続を実施することが必要となる。また、固有リスク及び統制リスクが低いと判断したときは、発見リスクを高めに設定し、適度な監査手続により合理的な監査リスクの水準が達成できることとなる。このように、固有リスクと統制リスクの評価を通じて、発見リスクの水準が決定される。

(4) リスク評価の位置付け

このようなリスク・アプローチの考え方は、虚偽の表示が行われる可能性の要因に着目し、その評価を通じて実施する監査手続やその実施の時期及び範囲を決定することにより、より効果的でかつ効率的な監査を実現しようとするものである。これは、企業が自ら十分な内部統制を構築し適切に運用することにより、虚偽の表示が行われる可能性を減少させるほど、監査も効率的に実施され得ることにもなる。したがって、リスク・アプローチに基づいて監査を実施するためには、監査人による各リスクの評価が決定的に重要となる。そのために、景気の動向、企業が属する産業の状況、企業の社会的信用、企業の事業内容、経営者の経営方針や理念、情報技術の利用状況、事業組織や人的構成、経営者や従業員の資質、内部統制の機能、その他経営活動に関わる情報を入手することが求められる。監査人がこれらの情報の入手やリスクの評価を行うに当たっては、経営者等とのディスカッションが有効であると考えられ、こういった手法を通じて、経営者等の認識や評価を理解することが重要となる。

4 監査上の重要性について

監査上の重要性は、監査計画の策定と監査の実施、監査証拠の評価ならびに意見形成のすべてに関わる監査人の判断の規準であり、次のように適用される。

(1) 監査人は、監査計画の策定に当たり、財務諸表の重要な虚偽の表示を看過しないようにするために、容認可能な重要性の基準値(通常は、金額的な数値が設けられる)を決定し、これをもとに、達成すべき監査リスクの水準も勘案しながら、特定の勘定や取引について実施すべき監査手続、その実施の時期及び範囲を決定し、監査を実施する。

(2) 監査人は、監査の実施の過程で判明した重要な虚偽の表示につながる可能性のある事項については、その金額的影響及び質的影響(例えば、少額であっても他の関連項目や次年度以降に重要な影響を与える可能性がある)を検討し、必要であれば、監査の実施の結果を見直したり、追加の監査手続を実施するが、このような金額的・質的影響の評価に関わる判断の
-10-規準も監査上の重要性の一部となる。

(3) 監査人は、監査意見の形成に当たって、会計方針の選択やその適用方法、あるいは財務諸表の表示方法について不適切な事項がある場合に、当該事項を除外した上で適正とするか又は財務諸表を不適正とするかを判断するが、この判断の規準も監査上の重要性を構成する。

(4)監査人は、監査を実施する上で一部の監査手続を実施できなかったり、必要な証拠の提供を得られないなどの制約を受けた場合に、当該事実が影響する事項を除外した上で意見を表明するか又は意見の表明をしないかを判断するが、この場合の判断の規準も監査上の重要性の一部となる。

5 内部統制の概念について

リスク・アプローチを採用する場合、アプローチを構成する各リスクの評価が肝要となるが、なかでも統制リスクの評価は監査の成否の鍵となる。監査人としては、企業に内部統制が整備されていない場合には、意見形成の合理的な基礎を得ることが著しく困難なものとなる。したがって、企業としても、効果的かつ効率的な監査を受けるためには内部統制の充実を図ることが欠かせないことになる。十分かつ適切に内部統制が運用されている企業については、利用し得る範囲において内部監査との連携等も考慮して、一層の効果的かつ効率的な監査が行われることが期待される。監査人としても、内部統制の重要な欠陥を発見した場合には、経営者等にその改善を促すことが望ましい。

ここで、内部統制とは、企業の財務報告の信頼性を確保し、事業経営の有効性と効率性を高め、かつ事業経営に関わる法規の遵守を促すことを目的として企業内部に設けられ、運用される仕組みと理解される。

内部統制は、(1)経営者の経営理念や基本的経営方針、取締役会や監査役の有する機能、社風や慣行などからなる統制環境、(2)企業目的に影響を与えるすべての経営リスクを認識し、その性質を分類し、発生の頻度や影響を評価するリスク評価の機能、(3)権限や職責の付与及び職務の分掌を含む諸種の統制活動、(4)必要な情報が関係する組織や責任者に、適宜、適切に伝えられることを確保する情報・伝達の機能、(5)これらの機能の状況が常時監視され、評価され、是正されることを可能とする監視活動という5つの要素から構成され、これらの諸要素が経営管理の仕組みに組み込まれて一体となって機能することで上記の目的が達成される。

このような内部統制の概念と構成要素は国際的にも共通に理解されているものであるが、それぞれの企業において、具体的にどのような内部統制の仕組みを構築し、どのように運用するかということについては、各国の法制や社会慣行あるいは個々の企業の置かれた環境や事業の特性等を踏まえ、経営者自らが、ここに示した内部統制の機能と役割を効果的に達成し得るよう工夫していくべきものである。

なお、監査人による統制リスクの評価対象は、基本的に、企業の財務報告の信頼性を確保する目的に係る内部統制であるが、そのための具体的な仕組み及び運用の状況は企業によって異なるため、監査人が内部統制を評価するに当たっては上記5つの要素に留意しなければならない。

6 継続企業の前提について

(1) 継続企業の前提に対する対処

企業が将来にわたって事業活動を継続するとの前提(以下「継続企業の前提」という。)について、監査人が検討することに対する社会の期待が存在する。背景には、近年我が国で企業破綻の事例が相次ぎ、利害関係者の要望が強くなったことがある。さらに、すでに米国をはじめとする主要国の監査基準、ならびに国際監査基準(ISA)は、継続企業の前提に関して監査人が検討を行うことを義務づけていることからも、改訂基準で導入することが適当と判断したものである。

(2) 監査上の判断の枠組み

継続企業の前提に関わる監査基準のあり方としては、監査人の責任はあくまでも二重責任の原則に裏付けられたものとしている。経営者は、財務諸表の作成に当たって継続企業の前提が成立しているかどうかを判断し、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況について、適切な開示を行わなければならない。したがって、継続企業の前提に重要な疑義が認められる場合においても、監査人の責任は、企業の事業継続能力そのものを認定し、企業の存続を保証することにはなく、適切な開示が行われているか否かの判断、すなわち、会計処理や開示の適正性に関する意見表明の枠組みの中で対応することにある。

監査人による継続企業の前提に関する検討は、経営者による継続企業の前提に関する評価を踏まえて行われるものである。具体的には、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況の有無、合理的な期間(少なくとも決算日から1年間)について経営者が行った評価、当該事象等を解消あるいは大幅に改善させるための経営者の対応及び経営計画について検討する。

その結果、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況が存在し、当該事象等の解消や大幅な改善に重要な不確実性が残るため、継続企業の前提に重要な疑義が認められる場合には、その疑義に関わる事項が財務諸表において適切に開示されていれば(他に除外すべき事項がない場合には)無限定適正意見を表明し、それらの開示が適切でなければ除外事項を付した限定付適正意見を表明するか又は不適正意見を表明する。なお、無限定適正意見を表明する場合には、監査報告書において、財務諸表が継続企業の前提に基づき作成されていることや当該重要な疑義の影響が財務諸表に反映されていないことなどを含め、当該重要な疑義に関する開示について情報を追記することになる。また、経営者が適切な評価を行わず、合理的な経営計画等が経営者から提示されない場合には、監査範囲の制約に相当することとなり、除外事項を付した限定付適正意見を表明するか又は意見を表明しない。ただし、事業の継続が困難であり継続企業の前提が成立していないことが一定の事実をもって明らかなときは不適正意見を表明することになる。

これらは、基本的に国際的ないし主要国の監査基準に沿ったものである。要は、企業の事業継続能力に関わる情報の財務諸表における適切な開示を促すことが継続企業の前提に関わる監査基準の考え方である。

(3) 継続企業の前提に関わる開示

継続企業の前提に影響を与える可能性がある事象や状況を余り広範に捉えると、その影響の重要度や発現時期が混淆し、却って投資判断に関する有用性を損なうとともに、監査人が対処できる限界を超えると考えられる。したがって、公認会計士監査においては、相当程度具体的であってその影響が重要であると認められるような、重要な疑義を抱かせる事象又は状況についてのみ対処することとした。

継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況としては、企業の破綻の要因を一義的に定義することは困難であることから、財務指標の悪化の傾向、財政破綻の可能性等概括的な表現を用いている。より具体的に例示するとすれば、財務指標の悪化の傾向としては、売上の著しい減少、継続的な営業損失の発生や営業キャッシュ・フローのマイナス、債務超過等が挙げられる。財政破綻の可能性としては、重要な債務の不履行や返済の困難性、新たな資金調達が困難な状況、取引先からの与信の拒絶等が挙げられる。また、事業の継続に不可欠な重要な資産の毀損や権利の失効、重要な市場や取引先の喪失、巨額の損害賠償の履行、その他法令に基づく事業の制約等も考慮すべき事象や状況となると考えられる。いずれにせよ、このような事象や状況が存在する場合には、その旨、その内容、継続企業の前提に関する重要な疑義の存在、当該事象や状況に対する経営者の対応及び経営計画、当該重要な疑義の影響を財務諸表に反映しているか否か等について、財務諸表に注記を義務づけていくことが必要である。

一方、企業活動の継続が損なわれるような重要な事象や状況は突然生起することは稀であり、財務諸表の注記が行われるまで何ら投資者に情報が開示されないことも問題であると考えられる。したがって、上記のような事象や状況につながる虞のある重要な事項については、有価証券報告書や営業報告書等において適切に開示されることが求められる。

7 情報技術(IT)の利用と監査の対応について

企業における情報技術の利用は監査実務にも大きな影響を与えている。特に、監査対象の財務諸表の基礎となる会計情報を処理するシステムが情報技術を高度に取り入れたものである場合は、監査の実施に当たって、統制リスク等の各種のリスク評価に大きく関係する。また、企業が利用している情報技術とシステムに関する十分な知識と対応できる技術的な能力の保持が監査人に求められるという意味で、監査人自身にとってもその責任の履行上、重要な影響が生じることとなる。

改訂基準では、このような状況を背景にして、企業における情報技術の利用に対応したいくつかの措置を講じているが、これも基本的な指示に止まっており、より技術的な指示は日本公認会計士協会の指針において設けられる必要がある。

8 実施基準に関わるその他の改訂事項

(1) 監査計画の充実

監査計画を策定することの重要性については、これまでも「監査基準」で指示されてきたところであるが、リスク・アプローチのもとでは、各リスクの評価と監査手続、監査証拠の評価ならびに意見の形成との間の相関性が一層強くなり、この間の一体性を維持し、監査業務の適切な管理をするために監査計画はより重要性を増している。改訂基準では、これらの点に鑑み、リスク・アプローチに基づいた監査計画の策定のあり方を指示した。

(2) 監査要点と監査証拠

監査要点とは、財務諸表の基礎となる取引や会計事象等の構成要素について立証すべき目標であり、実施基準において、実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性等を挙げるとともに、監査要点に適合した十分かつ適切な監査証拠を入手することを求めている。なお、監査要点は、監査を受ける企業の業種、組織、情報処理システムなどに対応して監査人が自らの判断で設定することが基本となる。

(3) 監査手続

改訂前の「監査基準」においては、監査人が自己の意見表明の合理的な基礎を得るために必要と認めて実施する監査手続として「通常実施すべき監査手続」という概念を用いたが、この表現は、あたかも定型的な監査手続の組み合わせとその適用方法があるかのような誤解を与えることもあるので、使用しないこととした。また、監査手続については、改訂前の「監査実施準則」で、実査、立会、確認、質問、視察、閲覧、証憑突合、帳簿突合、計算突合、勘定分析、分析的手続等として個々の監査の手法を列挙していた。しかし、改訂基準では監査手続を、統制リスクを評価するために行う統制評価手続と監査要点の直接的な立証のために行う実証手続という概念に区分した上で、監査人が選択する具体的な監査の手法の例示は削除した。重要な監査の手法については、日本公認会計士協会が指針において、その種類や適用方法を明確にすることが必要である。

(4) 会計上の見積りの合理性

新たな会計基準の導入等により、会計上の認識・測定において、従来にも増して経営者の見積りに基づく要素が重要となってきている。改訂基準では、会計上の見積りの合理性について、監査人自身も、十分かつ適切な監査証拠を入手して判断すべきことを指示し、そのために、経営者が行った見積りの方法の評価ばかりでなく、その見積りと監査人自身の見積りや決算日後に判明した実績とを比較したりすることが必要となる場合もあることを明記している。

(5) 経営者からの書面による確認

改訂前の「監査実施準則」における経営者確認書の入手は、それ自体が監査手続の一部を構成するものであるかが曖昧であるとの指摘があり、また、監査人が必要と認めた事項について経営者から書面により陳述を得ることが本来の趣旨であることから、経営者確認書という固定的なものとしてではなく、経営者からの書面による確認を監査手続として明確に位置付けた。したがって、必ずしも経営者からの書面による確認を監査の終了時に限るものではなく、監査人の判断により、適宜、適切に行うことになる。

(6) 他の監査人の監査結果の利用

企業活動の国際化・多角化及び連結対象会社の増加による監査範囲の拡大に伴い、他の監査人の監査の結果を利用する範囲も拡大することから、主たる監査人と他の監査人との責任のあり方についての議論があるが、改訂基準では従来の考え方を変更していない。すなわち、他の監査人の監査の結果を利用する場合も、監査に関わる責任は主たる監査人が負うものであり、報告基準においても他の監査人の監査の結果を利用した場合に特別の記載を求めることはしていない。

なお、監査範囲の大半について他の監査人の監査の結果を利用しなければならない場合には、実質的には他の監査人が監査を行うという結果となることから、監査人として監査を実施することについて、監査契約の締結の可否を含めて慎重に判断すべきである。

9 監査意見及び監査報告書

我が国の監査実務を国際的に遜色のないものとすることは改訂の目的の一つであり、監査報告書の書式の改訂もその一環である。また、近年、監査を巡る社会の関心が高まるなかで、監査がどのように行われ、またいかなる判断が監査人により行われ、その結果としていかなる意見が表明されるかについて、これまで必ずしも社会的な理解が得られていたとは言えない。このような事情を背景として、改訂基準では、自己の意見を形成するに足る合理的な基礎を得て意見を表明することを報告基準においても明確にした。また、改訂前の「監査実施準則」では「適当な審査機能を備えなければならない」との表現をしていた点について、監査の質の管理の一環として設けられる審査機能を踏まえ、報告基準では意見の表明に先立ち審査を受けなければならないことを明確にし、さらに、次のように監査報告に関する抜本的な改訂を行った。

(1) 適正性の判断

①監査意見の形成と表明に当たっての監査人による判断の規準を示すことに重点を置いた。これまでの「監査基準」や「監査報告準則」が監査報告書の記載要件を示すことを重視していた点、ならびに、結果として、会計基準への準拠性、会計方針の継続性及び表示方法の基準への準拠性という、適正である旨の意見表明に関する従来の三つの記載要件が、ともすれば形式的な監査判断に陥らせるものとなりがちであった点を改め、改訂基準は、監査人が意見を形成するに当たっての判断の規準を示すことを重視している。

②監査人が財務諸表の適正性を判断するに当たり、実質的に判断する必要があることを示した。監査人は、経営者が採用した会計方針が会計基準のいずれかに準拠し、それが単に継続的に適用されているかどうかのみならず、その会計方針の選択や適用方法が会計事象や取引の実態を適切に反映するものであるかどうかを判断し、その上で財務諸表における表示が利用者に理解されるために適切であるかどうかについても評価しなければならない。

③会計方針の選択や適用方法が会計事象や取引の実態を適切に反映するものであるかの判断においては、会計処理や財務諸表の表示方法に関する法令又は明文化された会計基準やその解釈に関わる指針等に基づいて判断するが、その中で、会計事象や取引について適用すべき会計基準等が明確でない場合には、経営者が採用した会計方針が当該会計事象や取引の実態を適切に反映するものであるかどうかについて、監査人が自己の判断で評価しなければならない。また、会計基準等において詳細な定めのない場合も、会計基準等の趣旨を踏まえ、同様に監査人が自己の判断で評価することとなる。新しい会計事象や取引、例えば、複雑な金融取引や情報技術を利用した電子的な取引についても、経営者が選択し、適用した会計方針がその事象や取引の実態を適切に反映するものであるかどうかを監査人は自己の判断で評価しなければならない。

なお、財務諸表において収益の認識等の重要な会計方針が明確に開示されることも必要である。

(2) 監査報告書の記載

①監査報告書は、基本的に、監査の対象、実施した監査の概要及び財務諸表に対する意見という三つの区分に分けて記載することとした。監査の対象には、いわゆる二重責任の原則についても記述することを明記した。また、監査の概要に関する記述を国際的な監査基準に合わせて、より詳細なものとし、監査が試査を基礎として実施されることや経営者によって行われた見積りの評価も含まれることなどを明記し、監査の内容に関する利用者の理解を促すようにした。

②監査範囲の制約を受けた場合の意見表明のあり方を含め、監査人の意見がいかなる規準で形成され、表明されるかを示した。特に、意見を表明しない場合と不適正意見の場合だけでなく、除外事項を付した限定付適正意見の位置付けも明確にした。さらに、訴訟に代表されるような将来の帰結が予測し得ない事象や状況が生じ、しかも財務諸表に与える当該事象や状況の影響が複合的で多岐にわたる場合(それらが継続企業の前提にも関わるようなときもある)に、入手した監査証拠の範囲では意見の表明ができないとの判断を監査人が下すこともあり得ることを明記したが、基本的には、そのような判断は慎重になされるべきことを理解しなければならない。

③継続企業の前提に関わる問題については、前述のとおり、監査人の意見表明についての判断の規準と監査報告書において記載すべき事項を示した。

(3) 追記情報

①監査人による情報の追記について示した。本来、意見表明に関する監査人の責任は自らの意見を通しての保証の枠組みのなかで果たされるべきものであり、その枠組みから外れる事項は監査人の意見とは明確に区別することが必要である。このように考え方を整理した上で、財務諸表の表示に関して適正であると判断し、なおもその判断に関して説明を付す必要がある事項や財務諸表の記載について強調する必要がある事項を監査報告書で情報として追記する場合には、意見の表明と明確に区分し、監査人からの情報として追記するものとした。具体的には、監査報告書の基本的な三つの区分による記載事項とは別に記載することとなる。したがって、除外すべき事項を追記情報として記載することはできない。これに関連して、監査人の意見との関係が曖昧であるとの指摘もある特記事項は廃止した。

②監査意見からの除外事項及び追記する情報に関連して、従来、除外事項とされていた正当な理由による会計方針の変更は、不適切な理由による変更と同様に取り扱うことは誤解を招くことから、除外事項の対象とせずに、追記する情報の例示としたが、会計方針の変更理由が明確でないものがあるとの指摘もある点を踏まえ、監査人には厳格な判断が求められることは言うまでもない。また、この改訂に伴い、会計基準の変更に伴う会計方針の変更についても、正当な理由による会計方針の変更として取り扱うこととすることが適当である。なお、会計方針の変更があった場合における財務諸表の期間比較の観点からは、変更後の会計方針による過年度への影響に関する情報提供についても、財務諸表の表示方法の問題として検討することが必要である。

③追記する情報には、監査報告書を添付した財務諸表を含む開示情報と財務諸表の記載内容との重要な相違を挙げているが、これは、財務諸表と共に開示される情報において、財務諸表の表示やその根拠となっている数値等と重要な相違があるときには、監査人が適正と判断した財務諸表に誤りがあるのではないかとの誤解を招く虞があるため、追記する情報として例示した。

(4) 監査報告書の日付及び署名

監査報告書の日付は、後発事象の範囲等も含め監査人の責任に関わる重要な事項である。したがって、監査人が自らの責任において監査が終了したと判断したときに監査報告書を作成することが基本であると考えられる。しかし、これは、財務諸表の開示制度上あるいは監査の終了をどう捉えるか等の問題であり、改訂基準においては特定の時点を示すことはしなかった。

また、個人名や捺印が必要か否か、あるいは監査事務所などの名称のみの記載が適切か否かという問題は、むしろ、監査に関わる責任主体についての法律的あるいは制度的な問題であり、監査基準には馴染まないものと考えられることから、改訂基準においては監査人の具体的な記名方法を示すことはしなかった。

四 実施時期等

1 改訂基準は、平成15年3月決算に係る財務諸表の監査から実施する。なお、改訂基準の実施に当たり、関係法令において、改訂基準に基づく監査報告書の記載事項、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況に関する注記事項等について所要の整備を行うことが適当である。

2 監査基準は、すでに述べたとおり、日本公認会計士協会の指針と一体となって一般に公正妥当と認められる監査の基準を形成するものである。したがって、改訂基準を実務に適用するに当たっては、監査人に対してより具体的な指示が明確にされることが必要であり、日本公認会計士協会において、関係者とも協議の上、早急に、改訂基準を実施するための具体的な指針を作成することが要請される。さらに、経済社会の変化が著しい状況において、国際的にも監査実務が高度化されていくと考えられることから、国際的な動向も踏まえ、具体的な指針について柔軟に見直しを行っていくことが求められる。


開示担当者の働き方改革に逆行する「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案

2018年11月2日、金融庁は「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案を公表しました。

1.主な改正内容

 本年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告において、「財務情報及び記述情報の充実」、「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」、「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」に向けて、適切な制度整備を行うべきとの提言がなされました。

 当該提言を踏まえ、今般有価証券報告書等の記載事項について、以下の改正を行います。

○ 財務情報及び記述情報の充実

  • 経営方針・経営戦略等について、市場の状況、競争優位性、主要製品・サービス、顧客基盤等に関する経営者の認識の説明を含めた記載を求めることとします。
  • 事業等のリスクについて、顕在化する可能性の程度や時期、リスクの事業へ与える影響の内容、リスクへの対応策の説明を求めることとします。
  • 会計上の見積りや見積りに用いた仮定について、不確実性の内容やその変動により経営成績に生じる影響等に関する経営者の認識の記載を求めることとします。

○ 建設的な対話の促進に向けた情報の提供

  • 役員の報酬について、報酬プログラムの説明(業績連動報酬に関する情報や役職ごとの方針等)、プログラムに基づく報酬実績等の記載を求めることとします。
  • 政策保有株式について、保有の合理性の検証方法等について開示を求めるとともに、個別開示の対象となる銘柄数を現状の30銘柄から60銘柄に拡大します。

○ 情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組

  • 監査役会等の活動状況、監査法人による継続監査期間、ネットワークファームに対する監査報酬等の開示を求めることとします。

2.施行・適用について(予定)

 改正後の規定は公布の日から施行する予定です。

 なお、改正後の規定は、以下の適用予定です。具体的な適用時期については、別紙2を御参照ください。

①平成31年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用(上記「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」欄に記載の項目等)

②平成32年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用(上記①以外)

※ ②については平成31年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等からの適用可。

金融庁:「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案の公表についてより引用)

 

改正案を一言でいうと

改正案の内容を一言でいえば、有価証券報告書に書くことが増えるということです(笑)

実際に適用が開始されると、開示担当者の実務負担が大幅に増えそうです。働き方改革に逆行した改正です(笑)

どうして、有報に書く内容が増えるのかというと、投資家にとって有益な情報(=詳細な情報)が欲しいというニーズに応えたものです。

改正の詳しい経緯・背景については、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の公表についてをご覧ください。

 

適用時期

3月決算の会社の場合、

  • 「役員の報酬」「政策保有株式」等については、今年度(2019年3月期)から適用されます。
  • その他については、翌年度(2020年3月期)から適用されます。

準備する間もなく適用が開始します。

こういう改正があるときは、2月決算の会社は得ですね。なにせ、3月決算の会社よりも適用が11か月遅れるわけですから。

おそらく、これから監査法人やコンサルティング会社などによるセミナーが頻繁に開かれることになるでしょう。


「監査基準の設定について」(昭和31年12月25日)の音声を公開しました





「監査基準の設定について」(昭和31年12月25日・大蔵省企業会計審議会中間報告)を読み上げ(音読・朗読)した音声を録音し、YouTubeに公開しました。

公認会計士試験の監査論の学習にお役立ていただければ、幸いです。

 

「監査基準の設定について」の音声

原文

監査基準の設定について(昭和31年12月25日)






監査基準の設定について(昭和31年12月25日)





監査基準の設定に関する意見書


監査基準の設定について

昭和31年12月25日

大蔵省企業会計審議会中間報告

監査基準は、監査実務の中に慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを帰納要約した原則であって、職業的監査人は、財務諸表の監査を行うに当り、法令によって強制されなくとも、常にこれを遵守しなければならない。

 

監査基準は、監査一般基準、監査実施基準及び監査報告基準の三種に区分する。監査一般基準は、監査人の適格性の条件及び監査人が業務上守るべき規範を明らかにする原則であり、監査実施基準は、監査手続の選択適用を規制する原則であり、監査報告基準は、監査報告書の記載要件を規律する原則である。

 

監査に関してかかる基準を設定する理由は、次のとおりである。

 

(1) 監査は、何人にも容易に行いうる簡単なものではなく、相当の専門的能力と実務上の経験とを備えた監査人にして初めて、有効適切にこれを行うことが可能である。又監査は何人にも安んじてこれを委せうるものではなく、高度の人格を有し、公正なる判断を下しうる立場にある監査人にして初めて、依頼人は信頼してこれを委任することができるのである。従って、監査人の資格及び条件について基準を設けることは、監査制度の確立及び維持のために欠くべからざる要件である。

 

(2) 監査を実施するに当り選択適用される監査手続は、企業の事情により異なるものであって、一律にこれを規定することは不可能であり、監査人の判断にまつところが大である。しかしながら監査の能力と経験は個々の監査人によって差異があるから、一切をあげて監査人の自由に委ねることは、必ずしも社会的信用をかちうる所以ではない。それと同時に又監査の実施に関して公正妥当な任務の限界を明らかにしなければ、徒らに監査人の責任を過重ならしめる結果ともなる。従って、監査に対する信頼性を高めるとともに、任務の範囲を限定するために、監査人の判断を規制すべき一定の基準を設け、これを遵守せしめることが必要である。

 

(3) 監査報告書は、監査の結果として、財務諸表に対する監査人の意見を表明する手段であるとともに、監査人が自己の意見に関する責任を正式に認める手段である。従って、その内容を簡潔明瞭に記載して報告するとともに責任の範囲を明確に記載して意見を表明することは、利害関係人ばかりでなく、監査人自身の利益を擁護するためにも重要である。過去の経験に徴するに、監査人は不当に責任を回避するため、あるいは徒らに晦渋な字句を用いて関係者を迷わせ、あるいは必要な記載を省略することが稀ではない。かくては監査本来の目的を没却し、監査制度の健全な発展を阻害することになろう。それ故、監査報告書の記載要件につき一定の基準を設け、監査人をしてこれを厳重に守らしめなければならない。

 

(4) 監査実施基準に従えば、監査計画の設定に当って、いかなる監査手続きを選択し、いかにこれを適用するかは、基準の枠を逸脱しない限り、監査人がそのときの事情に応じて、適当に決定することができる。しかし本来監査実施基準は、企業の種類又は規模のいかんにかかわらず、あらゆる場合に妥当すべき根本原則であるから、その内容はおのずから一般的な制約にとどまらざるを得ない。従って、かかる抽象的な基準のみでは、監査慣行の充分に確立していないわが国の場合では、未だ必ずしも監査の社会的信用を確保するに足りるとはいえない。さらに具体的に監査実施の要件を定めて、監査人の任務の範囲を明らかにする必要が認められるので、監査実施基準を補足するものとして、監査実施準則を設定した。監査実施準則は、わが国の主要な企業の実際における会計制度の発展の現状を考慮して、事情の許す限り具体的に公正な限界を規定し、妥当な条件のもとに監査人を規制することを目的として制定したものである。

 

(5) 監査報告基準に対して、監査報告準則を設定した趣旨も、監査実施基準に対する監査実施準則の関係とまったく同様である。監査報告基準は、およそ職業的監査人が行う正規の財務諸表監査における監査報告に関する根本原則であるが、かかる一般的な基準だけでは、未だ監査報告に関する慣行が確立していないわが国の現状では、不充分であることを免れない。よって監査報告書の基本的様式、監査範囲に関する記載事項、財務諸表に対する意見の表明等に関して具体的な要件を明確にするために、監査報告基準を補足するものとして、監査報告準則を設定したのである。

 

昭和25年7月、経済安定本部企業会計基準審議会の中間報告として監査基準及び監査実施準則が公表されてから、すでに6年数ヶ月を経過した。当時におけるわが国の企業会計制度の実情のもとでは、この監査基準に基いてただちに正規の財務諸表監査を実施することは、時期尚早であると考えられたので、初年度においては会計制度監査を実施するにとどめ、その後の各年度においては、正規の財務諸表監査にいたるべき予備的段階として、財務諸項目の一部について監査する部分的監査を実施することとし、逐次その範囲を拡大して今日に及んだのである。かくして企業会計制度の発展と相まって、監査慣行も次第に成熟するにいたったので、ここに正規の財務諸表監査を実施すべき時期が到来したのである。

 

本報告は、さきの中間報告の公表以来の数年の間における監査実務経験にかんがみ、監査基準及び準則の一部を改訂したが、監査基準における根本原則には何ら変更は加えられていない。

 

これを要するに、監査基準の設定は、徒らに監査人を制約するものではなくして、むしろ監査人、依頼人及び一般関係人の利害を合理的に調整して、監査制度に確固たる基準を与え、その円滑な運営を図ろうとするものである。

※原文の漢数字や歴史的仮名遣いは、算用数字や現代仮名遣いに変更しております。






原価計算基準(全文)





目次

原価計算基準の設定について

第一章 原価計算の目的と原価計算の一般的基準

一 原価計算の目的

二 原価計算制度

三 原価の本質

四 原価の諸概念

五 非原価項目

六 原価計算の一般的基準

第二章 実際原価の計算

七 実際原価の計算手続

第一節 製造原価要素の分類基準

八 製造原価要素の分類基準

第二節 原価の費目別計算

九 原価の費目別計算

一〇 費目別計算における原価要素の分類

一一 材料費計算

一二 労務費計算

一三 経費計算

一四 費用別計算における予定価格等の適用

第三節 原価の部門別計算

一五 原価の部門別計算

一六 原価部門の設定

一七 部門個別費と部門共通費

一八 部門別計算の手続

第四節 原価の製品別計算

一九 原価の製品別計算および原価単位

二〇 製品別計算の形態

二一 単純総合原価計算

二二 等級別総合原価計算

二三 組別総合原価計算

二四 総合原価計算における完成品総合原価と期末仕掛品原価

二五 工程別総合原価計算

二六 加工費工程別総合原価計算

二七 仕損および減損の処理

二八 副産物等の処理と評価

二九 連産品の計算

三〇 総合原価計算における直接原価計算

三一 個別原価計算

三二 直接費の賦課

三三 間接費の配賦

三四 加工費の配賦

三五 仕損費の計算および処理

三六 作業くずの処理

第五節 販売費および一般管理費の計算

三七 販売費および一般管理費要素の分類基準

三八 販売費および一般管理費の計算

三九 技術研究費

第三章 標準原価の計算

四〇 標準原価算定の目的

四一 標準原価の算定

四二 標準原価の改訂

四三 標準原価の指示

第四章 原価差異の算定および分析

四四 原価差異の算定および分析

四五 実際原価計算制度における原価差異

四六 標準原価計算制度における原価差額

第五章 原価差異の会計処理

四七 原価差異の会計処理

 


原価計算基準

原価計算基準の設定について

わが国における原価計算は、従来、財務諸表を作成するに当たって真実の原価を正確に算定表示するとともに、価格計算に対して資料を提供することを主たる任務として成立し、発展してきた。
しかしながら、近時、経営管理のため、とくに業務計画および原価管理に役立つための原価計算への要請は、著しく強まってきており、今日、原価計算に対して与えられる目的は、単一ではない。すなわち、企業の原価計算制度は、真実の原価を確定して財務諸表の作成に役立つとともに、原価を分析し、これを経営管理者に提供し、もって業務計画および原価管理に役立つことが必要とされている。したがって、原価計算制度は、各企業がそれに対して期待する役立ちの程度において重点の相違はあるが、いずれの計算目的にもともに役立つように形成され、一定の計算秩序として常時継続的に行なわれるものであることを要する。ここに原価計算に対して提起される諸目的を調整し、原価計算を制度化するため、実践規範としての原価計算基準が、設定される必要がある。
原価計算基準は、かかる実践規範として、わが国現在の企業における原価計算の慣行のうちから、一般に公正妥当と認められるところを要約して設定されたものである。
しかしながら、この基準は、個々の企業の原価計算手続を画一に規定するものではなく、個々の企業が有効な原価計算手続を規定し実施するための基本的なわくを明らかにしたものである。したがって、企業が、その原価計算手続を規定するに当たっては、この基準が弾力性をもつものであることの理解のもとに、この基準にのっとり、業種、経営規模その他当該企業の個々の条件に応じて、実情に即するように適用されるべきものである。
この基準は、企業会計原則の一環を成し、そのうちとくに原価に関して規定したものである。それゆえ、すべての企業によって尊重されるべきであるとともに、たな卸資産の評価、原価差額の処理など企業の原価計算に関係ある事項について、法令の制定、改廃等が行なわれる場合にも、この基準が充分にしん酌されることが要望される。
昭和三十七年十一月八日

企業会計審議会

 

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第一章 原価計算の目的と原価計算の一般的基準

一 原価計算の目的
原価計算には、各種の異なる目的が与えられるが、主たる目的は、次のとおりである。
(一)  企業の出資者、債権者、経営者等のために、過去の一定期間における損益ならびに期末における財政状態を財務諸表に表示するために必要な真実の原価を集計すること。
(二)  価格計算に必要な原価資料を提供すること。
(三)  経営管理者の各階層に対して、原価管理に必要な原価資料を提供すること。ここに原価管理とは、原価の標準を設定してこれを指示し、原価の実際の発生額を計算記録し、これを標準と比較して、その差異の原因を分析し、これに関する資料を経営管理者に報告し、原価能率を増進する措置を講ずることをいう。
(四)  予算の編成ならびに予算統制のために必要な原価資料を提供すること。ここに予算とは、予算期間における企業の各業務分野の具体的な計画を貨幣的に表示し、これを総合編成したものをいい、予算期間における企業の利益目標を指示し、各業務分野の諸活動を調整し、企業全般にわたる総合的管理の要具となるものである。予算は、業務執行に関する総合的な期間計画であるが、予算編成の過程は、たとえば製品組合せの決定、部品を自製するか外注するかの決定等個々の選択的事項に関する意思決定を含むことは、いうまでもない。
(五)  経営の基本計画を設定するに当たり、これに必要な原価情報を提供すること。ここに基本計画とは、経済の動態的変化に適応して、経営の給付目的たる製品、経営立地、生産設備等経営構造に関する基本的事項について、経営意思を決定し、経営構造を合理的に組成することをいい、随時的に行なわれる決定である。

 

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二 原価計算制度
この基準において原価計算とは、制度としての原価計算をいう。原価計算制度は財務諸表の作成、原価管理、予算統制等の異なる目的が、重点の相違はあるが相ともに達成されるべき一定の計算秩序である。かかるものとして原価計算制度は、財務会計機構のらち外において随時断片的に行なわれる原価の統計的、技術的計算ないし調査ではなくて、財務会計機構と有機的に結びつき常時継続的に行なわれる計算体系である。原価計算制度は、この意味で原価会計にほかならない。
原価計算制度において計算される原価の種類およびこれと財務会計機構との結びつきは、単一ではないが、しかし原価計算制度を大別して実際原価計算制度と標準原価計算制度とに分類することができる。
実際原価計算制度は、製品の実際原価を計算し、これを財務会計の主要帳簿に組み入れ、製品原価の計算と財務会計とが、実際原価をもって有機的に結合する原価計算制度である。原価管理上必要ある場合には、実際原価計算制度においても必要な原価の標準を勘定組織のわく外において設定し、これと実際との差異を分析し、報告することがある。
標準原価計算制度は、製品の標準原価を計算し、これを財務会計の主要帳簿に組み入れ、製品原価の計算と財務会計とが、標準原価をもって有機的に結合する原価計算制度である。標準原価計算制度は、必要な計算段階において実際原価を計算し、これと標準との差異を分析し、報告する計算体系である。
企業が、この基準にのっとって、原価計算を実施するに当たっては、上述の意味における実際原価計算制度又は標準原価計算制度のいずれかを、当該企業が原価計算を行なう目的の重点、その他企業の個々の条件に応じて適用するものとする。
広い意味での原価の計算には、原価計算制度以外に、経営の基本計画および予算編成における選択的事項の決定に必要な特殊の原価たとえば差額原価、機会原価、付加原価等を、随時に統計的、技術的に調査測定することも含まれる。しかしかかる特殊原価調査は、制度としての原価計算の範囲外に属するものとして、この基準に含めない。

 

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三 原価の本質
原価計算制度において、原価とは、経営における一定の給付にかかわらせて、は握された財貨又は用役(以下これを「財貨」という。)の消費を、貨幣価値的に表わしたものである。
(一)  原価は、経済価値の消費である。経営の活動は、一定の財貨を生産し販売することを目的とし、一定の財貨を作り出すために、必要な財貨すなわち経済価値を消費する過程である。原価とは、かかる経営過程における価値の消費を意味する。
(二)  原価は、経営において作り出された一定の給付に転嫁される価値であり、その給付にかかわらせて、は握されたものである。ここに給付とは、経営が作り出す財貨をいい、それは経営の最終給付のみでなく、中間的給付をも意味する。
(三)  原価は、経営目的に関連したものである。経営の目的は、一定の財貨を生産し販売することにあり、経営過程は、このための価値の消費と生成の過程である。原価は、かかる財貨の生産、販売に関して消費された経済価値であり、経営目的に関連しない価値の消費を含まない。財務活動は、財貨の生成および消費の過程たる経営過程以外の、資本の調達、返還、利益処分等の活動であり、したがってこれに関する費用たるいわゆる財務費用は、原則として原価を構成しない。
(四)  原価は、正常的なものである。原価は、正常な状態のもとにおける経営活動を前提として、は握された価値の消費であり、異常な状態を原因とする価値の減少を含まない。

 

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四 原価の諸概念
原価計算制度においては、原価の本質的規定にしたがい、さらに各種の目的に規定されて、具体的には次のような諸種の原価概念が生ずる。
(一)  実際原価と標準原価
原価は、その消費量および価格の算定基準を異にするにしたがって、実際原価と標準原価とに区別される。
1  実際原価とは、財貨の実際消費量をもって計算した原価をいう。ただし、その実際消費量は、経営の正常な状態を前提とするものであり、したがって、異常な状態を原因とする異常な消費量は、実際原価の計算においてもこれを実際消費量と解さないものとする。
実際原価は、厳密には実際の取得価格をもって計算した原価の実際発生額であるが、原価を予定価格等をもって計算しても、消費量を実際によって計算する限り、それは実際原価の計算である。ここに予定価格とは、将来の一定期間における実際の取得価格を予想することによって定めた価格をいう。
2  標準原価とは、財貨の消費量を科学的、統計的調査に基づいて能率の尺度となるように予定し、かつ、予定価格又は正常価格をもって計算した原価をいう。この場合、能率の尺度としての標準とは、その標準が適用される期間において達成されるべき原価の目標を意味する。
標準原価計算制度において用いられる標準原価は、現実的標準原価又は正常原価である。
現実的標準原価とは、良好な能率のもとにおいて、その達成が期待されうる標準原価をいい、通常生ずると認められる程度の減損、仕損、遊休時間等の余裕率を含む原価であり、かつ、比較的短期における予定操業度および予定価格を前提として決定され、これら諸条件の変化に伴い、しばしば改訂される標準原価である。現実的標準原価は、原価管理に最も適するのみでなく、たな卸資産価額の算定および予算の編成のためにも用いられる。
正常原価とは、経営における異常な状態を排除し、経営活動に関する比較的長期にわたる過去の実際数値を統計的に平準化し、これに将来にすう勢を加味した正常能率、正常操業度および正常価格に基づいて決定される原価をいう。正常原価は、経済状態の安定している場合に、たな卸資産価額の算定のために最も適するのみでなく、原価管理のための標準としても用いられる。
標準原価として、実務上予定原価が意味される場合がある。予定原価とは、将来における財貨の予定消費量と予定価格とをもって計算した原価をいう。予定原価は、予算の編成に適するのみでなく、原価管理およびたな卸資産価額の算定のためにも用いられる。
原価管理のために時として理想標準原価が用いられることがあるが、かかる標準原価は、この基準にいう制度としての標準原価ではない。理想標準原価とは、技術的に達成可能な最大操業度のもとにおいて、最高能率を表わす最低の原価をいい、財貨の消費における減損、仕損、遊休時間等に対する余裕率を許容しない理想的水準における標準原価である。
(二)  製品原価と期間原価
原価は、財務諸表上収益との対応関係に基づいて、製品原価と期間原価とに区別される。
製品原価とは、一定単位の製品に集計された原価をいい、期間原価とは、一定期間における発生額を、当期の収益に直接対応させて、は握した原価をいう。
製品原価と期間原価との範囲の区別は相対的であるが、通常、売上品およびたな卸資産の価額を構成する全部の製造原価を製品原価とし、販売費および一般管理費は、これを期間原価とする。
(三)  全部原価と部分原価
原価は、集計される原価の範囲によって、全部原価と部分原価とに区別される。全部原価とは、一定の給付に対して生ずる全部の製造原価又はこれに販売費および一般管理費を加えて集計したものをいい、部分原価とは、そのうち一部分のみを集計したものをいう。
部分原価は、計算目的によって各種のものを計算することができるが、最も重要な部分原価は、変動直接費および変動間接費のみを集計した直接原価(変動原価)である。

 

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五 非原価項目
非原価項目とは、原価計算制度において、原価に算入しない項目をいい、おおむね次のような項目である。
(一)  経営目的に関連しない価値の減少、たとえば
1 次の資産に関する減価償却費、管理費、租税等の費用
(1)  投資資産たる不動産、有価証券、貸付金等
(2)  未稼働の固定資産
(3)  長期にわたり休止している設備
(4)  その他経営目的に関連しない資産
2 寄付金等であって経営目的に関連しない支出
3 支払利息、割引料、社債発行割引料償却、社債発行費償却、株式発行費償却、設立費償却、開業費償却、支払保険料等の財務費用
(二)  異常な状態を原因とする価値の減少、たとえば
1 異常な仕損、減損、たな卸減耗等
2 火災、震災、風水害、盗難、争議等の偶発的事故による損失
3 予期し得ない陳腐化等によって固定資産に著しい減価を生じた場合の臨時償却費
4 延滞償金、違約金、罰課金、損害賠償金
5 偶発債務損失
6 訴訟費
7 臨時多額の退職手当
8 固定資産売却損および除却損
9 異常な貸倒損失
(三)  税法上とくに認められている損失算入項目、たとえば
1 価格変動準備金繰入額
2 租税特別措置法による償却額のうち通常の償却範囲額をこえる額
(四)  その他の利益剰余金に課する項目、たとえば
1 法人税、所得税、都道府県民税、市町村民税
2 配当金
3 役員賞与金
4 任意積立金繰入額
5 建設利息償却

 

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六 原価計算の一般的基準
原価計算制度においては、次の一般的基準にしたがって原価を計算する。
(一) 財務諸表の作成に役立つために、
1  原価計算は原価を一定の給付にかかわらせて集計し、製品原価および期間原価を計算する。すなわち、原価計算は原則として
(1)  すべての製造原価要素を製品に集計し、損益計算書上の売上品の製造原価を売上高に対応させ、貸借対照表上仕掛品、半製品、製品等の製造原価をたな卸資産として計上することを可能にさせ、
(2)  また、販売費および一般管理費を計算し、これを損益計算書上期間原価として当該期間の売上高に対応させる。
2  原価の数値は、財務会計の原始記録、信頼しうる統計資料等によって、その信ぴょう性が確保されるものでなければならない。このため原価計算は、原則として実際原価を計算する。この場合実際原価を計算することは、必ずしも原価を取得価格をもって計算することを意味しないで、予定価格等をもって計算することもできる。また必要ある場合には、製品原価を標準原価をもって計算し、これを財務諸表に提供することもできる。
3  原価計算において、原価を予定価格等又は標準原価をもって計算する場合には、これと原価の実際発生額との差異は、これを財務会計上適正に処理しなければならない。
4  原価計算は、財務会計機構と有機的に結合して行なわれるものとする。このために勘定組織には、原価に関する細分記録を統括する諸勘定を設ける。
(二)  原価管理に役立つために、
5  原価計算は、経営における管理の権限と責任の委譲を前提とし、作業区分等に基づく部門を管理責任の区分とし、各部門における作業の原価を計算し、各管理区分における原価発生の責任を明らかにさせる。
6  原価計算は、原価要素を、機能別に、また直接費と間接費、固定費と変動費、管理可能費と管理不能費の区分に基づいて分類し、計算する。
7  原価計算は、原価の標準の設定、指示から原価の報告に至るまでのすべての計算過程を通じて、原価の物量を測定表示することに重点をおく。
8  原価の標準は、原価発生の責任を明らかにし、原価能率を判定する尺度として、これを設定する。原価の標準は、過去の実際原価をもってすることができるが、理想的には、標準原価として設定する。
9  原価計算は、原価の実績を、標準と対照比較しうるように計算記録する。
10  原価の標準と実績との差異は、これを分析し、報告する。
11  原価計算は、原価管理の必要性に応じて、重点的、経済的に、かつ、迅速にこれを行なう。
(三)  予算とくに費用予算の編成ならびに予算統制に役立つために、
12  原価計算は、予算期間において期待されうる条件に基づく予定原価又は標準原価を計算し、予算とくに、費用予算の編成に資料を提供するとともに、予算と対照比較しうるように原価の実績を計算し、もって予算統制に資料を提供する。

 

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第二章 実際原価の計算

七 実際原価の計算手続
実際原価の計算においては、製造原価は、原則として、その実際発生額を、まず費目別に計算し、次いで原価部門別に計算し、最後に製品別に集計する。販売費および一般管理費は、原則として、一定期間における実際発生額を、費目別に計算する。

 

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第一節 製造原価要素の分類基準

八 製造原価要素の分類基準
原価要素は、製造原価要素と販売費および一般管理費の要素に分類する。
製造原価要素を分類する基準は次のようである。
(一)  形態別分類
形態別分類とは、財務会計における費用の発生を基礎とする分類、すなわち原価発生の形態による分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを材料費、労務費および経費に属する各費目に分類する。
材料費とは、物品の消費によって生ずる原価をいい、おおむね次のように細分する。
1 素材費(又は原料費)
2 買入部品費
3 燃料費
4 工場消耗品費
5 消耗工具器具備品費
労務費とは、労務用役の消費によって生ずる原価をいい、おおむね次のように細分する。
1 賃金(基本給のほか割増賃金を含む。)
2 給料
3 雑給
4 従業員賞与手当
5 退職給与引当金繰入額
6 福利費(健康保険料負担金等)
経費とは、材料費、労務費以外の原価要素をいい、減価償却費、たな卸減耗費および福利施設負担額、賃借料、修繕料、電力料、旅費交通費等の諸支払経費に細分する。
原価要素の形態別分類は、財務会計における費用の発生を基礎とする分類であるから、原価計算は、財務会計から原価に関するこの形態別分類による基礎資料を受け取り、これに基づいて原価を計算する。この意味でこの分類は、原価に関する基礎的分類であり、原価計算と財務会計との関連上重要である。
(二)  機能別分類
機能別分類とは、原価が経営上のいかなる機能のために発生したかによる分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを機能別に分類する。この分類基準によれば、たとえば、材料費は、主要材料費、および修繕材料費、試験研究材料費等の補助材料費、ならびに工場消耗品費等に、賃金は、作業種類別直接賃金、間接作業賃金、手待賃金等に、経費は、各部門の機能別経費に分類する。
(三)  製品との関連における分類
製品との関連における分類とは、製品に対する原価発生の態様、すなわち原価の発生が一定単位の製品の生成に関して直接的に認識されるかどうかの性質上の区別による分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを直接費と間接費とに分類する。
1 直接費は、これを直接材料費、直接労務費および直接経費に分類し、さらに適当に細分する。
2 間接費は、これを間接材料費、間接労務費および間接経費に分類し、さらに適当に細分する。
必要ある場合には、直接労務費と製造間接費とを合わせ、又は直接材料費以外の原価要素を総括して、これを加工費として分類することができる。
(四)  操業度との関連における分類
操業度との関連における分類とは、操業度の増減に対する原価発生の態様による分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを固定費と変動費とに分類する。ここに操業度とは、生産設備を一定とした場合におけるその利用度をいう。固定費とは、操業度の増減にかかわらず変化しない原価要素をいい、変動費とは、操業度の増減に応じて比例的に増減する原価要素をいう。
ある範囲内の操業度の変化では固定的であり、これをこえると急増し、再び固定化する原価要素たとえば監督者給料等、又は操業度が零の場合にも一定額が発生し、同時に操業度の増加に応じて比例的に増加する原価要素たとえば電力料等は、これを準固定費又は準変動費となづける。
準固定費又は準変動費は、固定費又は変動費とみなして、これをそのいずれかに帰属させるか、もしくは固定費と変動費とが合成されたものであると解し、これを固定費の部分と変動費の部分とに分類する。
(五)  原価の管理可能性に基づく分類
原価の管理可能性に基づく分類とは、原価の発生が一定の管理者層によって管理しうるかどうかの分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを管理可能費と管理不能費とに分類する。下級管理者層にとって管理不能費であるものも、上級管理者層にとっては管理可能費となることがある。

 

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第二節 原価の費目別計算

九 原価の費目別計算
原価の費目別計算とは、一定期間における原価要素を費目別に分類測定する手続をいい、財務会計における費用計算であると同時に、原価計算における第一次の計算段階である。

 

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一〇 費目別計算における原価要素の分類
費目別計算においては、原価要素を、原則として、形態別分類を基礎とし、これを直接費と間接費とに大別し、さらに必要に応じ機能別分類を加味して、たとえば次のように分類する。
直接費
直接材料費
主要材料費(原料費)
買入部品費
直接労務費
直接賃金(必要ある場合には作業種類別に細分する。)
直接経費
外注加工費
間接費
間接材料費
補助材料費
工場消耗品費
消耗工具器具備品費
間接労務費
間接作業賃金
間接工賃金
手待賃金
休業賃金
給料
従業員賞与手当
退職給与引当金繰入額
福利費(健康保険料負担金等)
間接経費
福利施設負担額
厚生費
減価償却費
賃借料
保険料
修繕料
電力料
ガス代
水道料
租税公課
旅費交通費
通信費
保管料
たな卸減耗費
雑費
間接経費は、原則として形態別に分類するが、必要に応じ修繕費、運搬費等の複合費を設定することができる。

 

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一一 材料費計算
(一) 直接材料費、補助材料費等であって、出入記録を行なう材料に関する原価は、各種の材料につき原価計算期間における実際の消費量に、その消費価格を乗じて計算する。
(二) 材料の実際の消費量は、原則として継続記録法によって計算する。ただし、材料であって、その消費量を継続記録法によって計算することが困難なもの又はその必要のないものについては、たな卸計算法を適用することができる。
(三) 材料の消費価格は、原則として購入原価をもって計算する。
同種材料の購入原価が異なる場合、その消費価格の計算は、次のような方法による。
1 先入先出法
2 移動平均法
3 総平均法
4 後入先出法
5 個別法
材料の消費価格は、必要ある場合には、予定価格等をもって計算することができる。
(四) 材料の購入原価は、原則として実際の購入原価とし、次のいずれかの金額によって計算する。
1 購入代価に買入手数料、引取運賃、荷役費、保険料、関税等材料買入に要した引取費用を加算した金額
2 購入代価に引取費用ならびに購入事務、検収、整理、選別、手入、保管等に要した費用(引取費用と合わせて以下これを「材料副費」という。)を加算した金額。ただし、必要ある場合には、引取費用以外の材料副費の一部を購入代価に加算しないことができる。
購入代価に加算する材料副費の一部又は全部は、これを予定配賦率によって計算することができる。予定配賦率は、一定期間の材料副費の予定総額を、その期間における材料の予定購入代価又は予定購入数量の総額をもって除して算定する。ただし、購入事務費、検収費、整理費、選別費、手入費、保管費等については、それぞれに適当な予定配賦率を設定することができる。
材料副費の一部を材料の購入原価に算入しない場合には、これを間接経費に属する項目とし又は材料費に配賦する。
購入した材料に対して値引又は割戻等を受けたときは、これを材料の購入原価から控除する。ただし、値引又は割戻等が材料消費後に判明した場合には、これを同種材料の購入原価から控除し、値引又は割戻等を受けた材料が判明しない場合には、これを当期の材料副費等から控除し、又はその他適当な方法によって処理することができる。
材料の購入原価は、必要ある場合には、予定価格等をもって計算することができる。
他工場からの振替製品の受入価格は、必要ある場合には、正常市価によることができる。
(五) 間接材料費であって、工場消耗品、消耗工具器具備品等、継続記録法又はたな卸計算法による出入記録を行わないものの原価は、原則として当該原価計算期間における買入額をもって計算する。

 

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一二 労務費計算
(一) 直接賃金等であって、作業時間又は作業量の測定を行なう労務費は、実際の作業時間又は作業量に賃率を乗じて計算する。賃率は、実際の個別賃率又は、職場もしくは作業区分ごとの平均賃率による。平均賃率は、必要ある場合には、予定平均賃率をもって計算することができる。
直接賃金等は、必要ある場合には、当該原価計算期間の負担に属する要支払額をもって計算することができる。
(二) 間接労務費であって、間接工賃金、給料、賞与手当等は、原則として当該原価計算期間の負担に属する要支払額をもって計算する。

 

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一三 経費計算
(一) 経費は、原則として当該原価計算期間の実際の発生額をもって計算する。ただし、必要ある場合には、予定価格又は予定額をもって計算することができる。
(二) 減価償却費、不動産賃借料等であって、数ヶ月分を一時に総括的に計算し又は支払う経費については、これを月割り計算する。
(三) 電力料、ガス代、水道料等であって、消費量を計量できる経費については、その実際消費量に基づいて計算する。

 

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一四 費用別計算における予定価格等の適用
費目別計算において一定期間における原価要素の発生を測定するに当たり、予定価格等を適用する場合には、これをその適用される期間における実際価格にできる限り近似させ、価格差異をなるべく僅少にするように定める。

 

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第三節 原価の部門別計算

一五 原価の部門別計算
原価の部門別計算とは、費目別計算においては握された原価要素を、原価部門別に分類集計する手続をいい、原価計算における第二次の計算段階である。

 

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一六 原価部門の設定
原価部門とは、原価の発生を機能別、責任区分別に管理するとともに、製品原価の計算を正確にするために、原価要素を分類集計する計算組織上の区分をいい、これを諸製造部門と諸補助部門とに分ける。製造および補助の諸部門は、次の基準により、かつ、経営の特質に応じて適当にこれを区分設定する。
(一) 製造部門
製造部門とは、直接製造作業の行なわれる部門をいい、製品の種類別、製品生成の段階、製造活動の種類別等にしたがって、これを各種の部門又は工程に分ける。たとえば機械製作工場における鋳造、鍛造、機械加工、組立等の各部門はその例である。
副産物の加工、包装品の製造等を行なういわゆる副経営は、これを製造部門とする。
製造に関する諸部門は、必要ある場合には、さらに機械設備の種類、作業区分等にしたがって、これを各小工程又は各作業単位に細分する。
(二) 補助部門
補助部門とは、製造部門に対して補助的関係にある部門をいい、これを補助経営部門と工場管理部門とに分け、さらに機能の種類別等にしたがって、これを各種の部門に分ける。
補助経営部門とは、その事業の目的とする製品の生産に直接関与しないで、自己の製品又は用役を製造部門に提供する諸部門をいい、たとえば動力部、修繕部、運搬部、工具製作部、検査部等がそれである。
工具製作、修繕、動力等の補助経営部門が相当の規模となった場合には、これを独立の経営単位とし、計算上製造部門として取り扱う。
工場管理部門とは、管理的機能を行なう諸部門をいい、たとえば材料部、労務部、企画部、試験研究部、工場事務部等がそれである。

 

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一七 部門個別費と部門共通費
原価要素は、これを原価部門に分類集計するに当たり、当該部門において発生したことが直接的に認識されるかどうかによって、部門個別費と部門共通費とに分類する。
部門個別費は、原価部門における発生額を直接に当該部門に賦課し、部門共通費は、原価要素別に又はその性質に基づいて分類された原価要素群別にもしくは一括して、適当な配賦基準によって関係各部門に配賦する。部門共通費であって工場全般に関して発生し、適当な配賦基準の得がたいものは、これを一般費とし、補助部門費として処理することができる。

 

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一八 部門別計算の手続
(一) 原価要素の全部又は一部は、まずこれを各製造部門および補助部門に賦課又は配賦する。この場合、部門に集計する原価要素の範囲は、製品原価の正確な計算および原価管理の必要によってこれを定める。たとえば、個別原価計算においては、製造間接費のほか、直接労務費をも製造部門に集計することがあり、総合原価計算においては、すべての製造原価要素又は加工費を製造部門に集計することがある。
各部門に集計された原価要素は、必要ある場合には、これを変動費と固定費又は管理可能費と管理不能費とに区分する。
(二) 次いで補助部門費は、直接配賦法、階梯式配賦法、相互配賦等にしたがい、適当な配賦基準によって、これを各製造部門に配賦し、製造部門費を計算する。
一部の補助部門費は、必要ある場合には、これを製造部門に配賦しないで直接に製品に配賦することができる。
(三) 製造部門に集計された原価要素は、必要に応じさらにこれをその部門における小工程又は作業単位に集計する。この場合、小工程又は作業単位には、その小工程等において管理可能の原価要素又は直接労務費のみを集計し、そうでないものは共通費および他部門配賦費とする。

 

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第四節 原価の製品別計算

一九 原価の製品別計算および原価単位
原価の製品別計算とは、原価要素を一定の製品単位に集計し、単位製品の製造原価を算定する手続をいい、原価計算における第三次の計算段階である。
製品別計算のためには、原価を集計する一定の製品単位すなわち原価単位を定める。原価単位は、これを個数、時間数、度量衡単位等をもって示し、業種の特質に応じて適当に定める。

 

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二〇 製品別計算の形態
製品別計算は、経営における生産形態の種類別に対応して、これを次のような類型に区分する。
(一)  単純総合原価計算
(二)  等級別総合原価計算
(三)  組別総合原価計算
(四)  個別原価計算

 

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二一 単純総合原価計算
単純総合原価計算は、同種製品を反復連続的に生産する生産形態に適用する。単純総合原価計算にあっては、一原価計算期間(以下これを「一期間」という。)に発生したすべての原価要素を集計して当期製造費用を求め、これに期首仕掛品原価を加え、この合計額(以下これを「総製造費用」という。)を、完成品と期末仕掛品とに分割計算することにより、完成品総合原価を計算し、これを製品単位に均分して単位原価を計算する。

 

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二二 等級別総合原価計算
等級別総合原価計算は、同一工程において、同種製品を連続生産するが、その製品を形状、大きさ、品位等によって等級に区別する場合に適用する。
等級別総合原価計算にあっては、各等級製品について適当な等価係数を定め、一期間における完成品の総合原価又は一期間の製造費用を等価係数に基づき各等級製品にあん分してその製品原価を計算する。
等価係数の算定およびこれに基づく等級製品原価の計算は、次のいずれかの方法による。
(一)  各等級製品の重量、長さ、面積、純分度、熱量、硬度等原価の発生と関連ある製品の諸性質に基づいて等価係数を算定し、これを各等級製品の一期間における生産量に乗じた積数の比をもって、一期間の完成品の総合原価を一括的に各等級製品にあん分してその製品原価を計算し、これを製品単位に均分して単位原価を計算する。
(二)  一期間の製造費用を構成する各原価要素につき、又はその性質に基づいて分類された数個の原価要素群につき、各等級製品の標準材料消費量、標準作業時間等各原価要素又は原価要素群の発生と関連ある物量的数値等に基づき、それぞれの等価係数を算定し、これを各等級製品の一期間における生産量に乗じた積数の比をもって、各原価要素又は原価要素群をあん分して、各等級製品の一期間の製造費用を計算し、この製造費用と各等級製品の期首仕掛品原価とを、当期における各等級製品の完成品とその期末仕掛品とに分割することにより、当期における各等級製品の総合原価を計算し、これを製品単位に均分して単位原価を計算する。
この場合、原価要素別又は原価要素群別に定めた等価係数を個別的に適用しないで、各原価要素又は原価要素群の重要性を加味して総括し、この総括的等価係数に基づいて、一期間の完成品の総合原価を一括的に各等級製品にあん分して、その製品原価を計算することができる。

 

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二三 組別総合原価計算
組別総合原価計算は、異種製品を組別に連続生産する生産形態に適用する。
組別総合原価計算にあっては、一期間の製造費用を組直接費と組間接費又は原料費と加工費とに分け、個別原価計算に準じ、組直接費又は原料費は、各組の製品に賦課し、組間接費又は加工費は、適当な配賦基準により各組に配賦する。次いで一期間における組別の製造費用と期首仕掛品原価とを、当期における組別の完成品とその期末仕掛品とに分割することにより、当期における組別の完成品総合原価を計算し、これを製品単位に均分して単位原価を計算する。

 

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二四 総合原価計算における完成品総合原価と期末仕掛品原価
単純総合原価計算、等級別総合原価計算および組別総合原価計算は、いずれも原価集計の単位が期間生産量であることを特質とする。すなわち、いずれも継続製造指図書に基づき、一期間における生産量について総製造費用を算定し、これを期間生産量に分割負担させることによって完成品総合原価を計算する点において共通する。したがって、これらの原価計算を総合原価計算の形態と総称する。
総合原価計算における完成品総合原価と期末仕掛品原価は、次の手続により算定する。
(一)  まず、当期製造費用および期首仕掛品原価を、原則として直接材料費と加工費とに分け、期末仕掛品の完成品換算量を直接材料費と加工費とについて算定する。
期末仕掛品の完成品換算量は、直接材料費については、期末仕掛品に含まれる直接材料消費量の完成品に含まれるそれに対する比率を算定し、これを期末仕掛品現在量に乗じて計算する。加工費については、期末仕掛品の仕上り程度の完成品に対する比率を算定し、これを期末仕掛品現在量に乗じて計算する。
(二)  次いで、当期製造費用および期首仕掛品原価を、次のいずれかの方法により、完成品と期末仕掛品とに分割して、完成品総合原価と期末仕掛品原価とを計算する。
1  当期の直接材料費総額(期首仕掛品および当期製造費用中に含まれる直接材料費の合計額)および当期の加工費総額(期首仕掛品および当期製造費用中に含まれる加工費の合計額)を、それぞれ完成品数量と期末仕掛品の完成品換算量との比により完成品と期末仕掛品とにあん分して、それぞれ両者に含まれる直接材料費と加工費とを算定し、これをそれぞれ合計して完成品総合原価および期末仕掛品原価を算定する(平均法)。
2  期首仕掛品原価は、すべてこれを完成品の原価に算入し、当期製造費用を、完成品数量から期首仕掛品の完成品換算量を差し引いた数量と期末仕掛品の完成品換算量との比により、完成品と期末仕掛品とにあん分して完成品総合原価および期末仕掛品原価を算定する(先入先出法)。
3  期末仕掛品の完成品換算量のうち、期首仕掛品の完成品換算量に相当する部分については、期首仕掛品原価をそのまま適用して評価し、これを超過する期末仕掛品の完成品換算量と完成品数量との比により、当期製造費用を期末仕掛品と完成品とにあん分し、期末仕掛品に対してあん分された額と期首仕掛品原価との合計額をもって、期末仕掛品原価とし、完成品にあん分された額を完成品総合原価とする(後入先出法)。
4  前三号の方法において、加工費について期末仕掛品の完成品換算量を計算することが困難な場合には、当期の加工費総額は、すべてこれを完成品に負担させ、期末仕掛品は、直接材料費のみをもって計算することができる。
5  期末仕掛品は、必要ある場合には、予定原価又は正常原価をもって評価することができる。
6  期末仕掛品の数量が毎期ほぼ等しい場合には、総合原価の計算上これを無視し、当期製造費用をもってそのまま完成品総合原価とすることができる。

 

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二五 工程別総合原価計算
総合原価計算において、製造工程が二以上の連続する工程に分けられ、工程ごとにその工程製品の総合原価を計算する場合(この方法を「工程別総合原価計算」という。)には、一工程から次工程へ振り替えられた工程製品の総合原価を、前工程費又は原料費として次工程の製造費用に加算する。この場合、工程間に振り替えられる工程製品の計算は、予定原価又は正常原価によることができる。

 

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二六 加工費工程別総合原価計算
原料がすべて最初の工程の始点で投入され、その後の工程では、単にこれを加工するにすぎない場合には、各工程別に一期間の加工費を集計し、それに原料費を加算することにより、完成品総合原価を計算する。この方法を加工費工程別総合原価計算(加工費法)という。

 

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二七 仕損および減損の処理
総合原価計算においては、仕損の費用は、原則として、特別に仕損費の費目を設けることをしないで、これをその期の完成品と期末仕掛品とに負担させる。
加工中に蒸発、粉散、ガス化、煙化等によって生ずる原料の減損の処理は、仕損に準ずる。

 

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二八 副産物等の処理と評価
総合原価計算において、副産物が生ずる場合には、その価額を算定して、これを主産物の総合原価から控除する。副産物とは、主産物の製造過程から必然に派生する物品をいう。
副産物の価額は、次のような方法によって算定した額とする。
(一)  副産物で、そのまま外部に売却できるものは、見積売却価額から販売費および一般管理費又は販売費、一般管理費および通常の利益の見積額を控除した額。
(二)  副産物で、加工の上売却できるものは、加工製品の見積売却価額から加工費、販売費および一般管理費又は加工費、販売費、一般管理費および通常の利益の見積額を控除した額。
(三)  副産物で、そのまま自家消費されるものは、これによって節約されるべき物品の見積購入価額
(四)  副産物で、加工の上自家消費されるものは、これによって節約されるべき物品の見積購入価額から加工費の見積額を控除した額
軽微な副産物は、前項の手続によらないで、これを売却して得た収入を、原価計算外の収益とすることができる。
作業くず、仕損品等の処理および評価は、副産物に準ずる。

 

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二九 連産品の計算
連産品とは、同一工程において同一原料から生産される異種の製品であって、相互に主副を明確に区別できないものをいう。連産品の価額は、連産品の正常市価等を基準として定めた等価係数に基づき、一期間の総合原価を連産品にあん分して計算する。この場合、連産品で、加工の上売却できるものは、加工製品の見積売却価額から加工費の見積額を控除した額をもって、その正常市価とみなし、等価係数算定の基礎とする。ただし、必要ある場合には、連産品の一種又は数種の価額を副産物に準じて計算し、これを一期間の総合原価から控除した額をもって、他の連産品の価額とすることができる。

 

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三〇 総合原価計算における直接原価計算
総合原価計算において、必要ある場合には、一期間における製造費用のうち、変動直接費および変動間接費のみを部門に集計して部門費を計算し、これに期首仕掛品を加えて完成品と期末仕掛品とにあん分して製品の直接原価を計算し、固定費を製品に集計しないことができる。
この場合、会計年度末においては、当該会計期間に発生した固定費額は、これを期末の仕掛品および製品と当年度の売上品とに配賦する。

 

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三一 個別原価計算
個別原価計算は、種類を異にする製品を個別的に生産する生産形態に適用する。
個別原価計算にあっては、特定製造指図書について個別的に直接費および間接費を集計し、製品原価は、これを当該指図書に含まれる製品の生産完了時に算定する。
経営の目的とする製品の生産に際してのみでなく、自家用の建物、機械、工具等の製作又は修繕、試験研究、試作、仕損品の補修、仕損による代品の製作等に際しても、これを特定指図書を発行して行なう場合は、個別原価計算の方法によってその原価を算定する。

 

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三二 直接費の賦課
個別原価計算における直接費は、発生のつど又は定期に整理分類して、これを当該指図書に賦課する。
(一)  直接材料費は、当該指図書に関する実際消費量に、その消費価格を乗じて計算する。消費価格の計算は、第二節一一の(三)に定めるところによる。
自家生産材料の消費価格は、実際原価又は予定価格等をもって計算する。
(二)  直接労務費は、当該指図書に関する実際の作業時間又は作業量に、その賃率を乗じて計算する。賃率の計算は、第二節一二の(一)に定めるところによる。
(三)  直接経費は、原則として当該指図書に関する実際発生額をもって計算する。

 

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三三 間接費の配賦
(一)  個別原価計算における間接費は、原則として部門間接費として各指図書に配賦する。
(二)  間接費は、原則として予定配賦率をもって各指図書に配賦する。
(三)  部門間接費の予定配賦率は、一定期間における各部門の間接費予定額又は各部門の固定間接費予定額および変動間接費予定額を、それぞれ同期間における当該部門の予定配賦基準をもって除して算定する。
(四)  一定期間における各部門の間接費予定額又は各部門の固定間接費予定額および変動間接費予定額は、次のように計算する。
1  まず、間接費を固定費および変動費に分類して、過去におけるそれぞれの原価要素の実績をは握する。この場合、間接費を固定費と変動費とに分類するためには、間接費要素に関する各費目を調査し、費目によって固定費又は変動費のいずれかに分類する。準固定費又は準変動費は、実際値の変化の調査に基づき、これを固定費又は変動費とみなして、そのいずれかに帰属させるか、もしくはその固定費部分および変動費率を測定し、これを固定費と変動費とに分解する。
2  次に、将来における物価の変動予想を考慮して、これに修正を加える。
3  さらに固定費は、設備計画その他固定費に影響する計画の変更等を考慮し、変動費は、製造条件の変更等変動費に影響する条件の変化を考慮して、これを修正する。
4  変動費は、予定操業度に応ずるように、これを算定する。
(五)  予定配賦率の計算の基礎となる予定操業度は、原則として、一年又は一会計期間において予期される操業度であり、それは、技術的に達成可能な最大操業度ではなく、この期間における生産ならびに販売事情を考慮して定めた操業度である。
操業度は、原則として直接作業時間、機械運転時間、生産数量等間接費の発生と関連ある適当な物量基準によって、これを表示する。
操業度は、原則としてこれを各部門に区分して測定表示する。
(六)  部門間接費の各指図書への配賦額は、各製造部門又はこれを細分した各小工程又は各作業単位別に、次のいずれかによって計算する。
1  間接費予定配賦率に、各指図書に関する実際の配賦基準を乗じて計算する。
2  固定間接費予定配賦率および変動間接費予定配賦率に、それぞれ各指図書に関する実際の配賦基準を乗じて計算する。
(七)  一部の補助部門費を製造部門に配賦しないで、直接に指図書に配賦する場合には、そのおのおのにつき適当な基準を定めてこれを配賦する。

 

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三四 加工費の配賦
個別原価計算において、労働が機械作業と密接に結合して総合的な作業となり、そのため製品に賦課すべき直接労務費と製造間接費とを分離することが困難な場合その他必要ある場合には、加工費について部門別計算を行ない、部門加工費を各指図書に配賦することができる。部門加工費の指図書への配賦は、原則として予定配賦率による。予定加工費配賦率の計算は、予定間接費配賦率の計算に準ずる。

 

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三五 仕損費の計算および処理
個別原価計算において、仕損が発生する場合には、原則として次の手続により仕損費を計算する。
(一)  仕損が補修によって回復でき、補修のために補修指図書を発行する場合には、補修指図書に集計された製造原価を仕損費とする。
(二)  仕損が補修によって回復できず、代品を製作するために新たに製造指図書を発行する場合において
1  旧製造指図書の全部が仕損となったときは、旧製造指図書に集計された製造原価を仕損費とする。
2  旧製造指図書の一部が仕損となったときは、新製造指図書に集計された製造原価を仕損費とする。
(三)  仕損の補修又は代品の製作のために別個の指図書を発行しない場合には、仕損の補修等に要する製造原価を見積ってこれを仕損費とする。
前記(二)又は(三)の場合において、仕損品が売却価値又は利用価値を有する場合には、その見積額を控除した額を仕損費とする。
軽微な仕損については、仕損費を計上しないで、単に仕損品の見積売却価額又は見積利用価額を、当該製造指図書に集計された製造原価から控除するにとどめることができる。
仕損費の処理は、次の方法のいずれかによる。
(一)  仕損費の実際発生額又は見積額を、当該指図書に賦課する。
(二)  仕損費を間接費とし、これを仕損の発生部門に賦課する。この場合、間接費の予定配賦率の計算において、当該製造部門の予定間接費額中に、仕損費の予定額を算入する。

 

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三六 作業くずの処理
個別原価計算において、作業くずは、これを総合原価計算の場合に準じて評価し、その発生部門の部門費から控除する。ただし、必要ある場合には、これを当該製造指図書の直接材料費又は製造原価から控除することができる。

 

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第五節 販売費および一般管理費の計算

三七 販売費および一般管理費要素の分類基準
販売費および一般管理費の要素を分類する基準は、次のようである。
(一)  形態別分類
販売費および一般管理費の要素は、この分類基準によって、たとえば、給料、賃金、消耗品費、減価償却費、賃借料、保険料、修繕料、電力料、租税公課、運賃、保管料、旅費交通費、通信費、広告料等にこれを分類する。
(二)  機能別分類
販売費および一般管理費の要素は、この分類基準によって、たとえば、広告宣伝費、出荷運送費、倉庫費、掛売集金費、販売調査費、販売事務費、企画費、技術研究費、経理費、重役室費等にこれを分類する。
この分類にさいしては、当該機能について発生したことが直接的に認識される要素を、は握して集計する。たとえば広告宣伝費には、広告宣伝係員の給料、賞与手当、見本費、広告設備減価償却費、新聞雑誌広告料、その他の広告料、通信費等が集計される。
(三)  直接費と間接費
販売費および一般管理費の要素は、販売品種等の区別に関連して、これを直接費と間接費とに分類する。
(四)  固定費と変動費
(五)  管理可能費と管理不能費

 

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三八 販売費および一般管理費の計算
販売費および一般管理費は、原則として、形態別分類を基礎とし、これを直接費と間接費とに大別し、さらに必要に応じ機能別分類を加味して分類し、一定期間の発生額を計算する。その計算は、製造原価の費目別計算に準ずる。

 

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三九 技術研究費
新製品又は新技術の開拓等の費用であって企業全般に関するものは、必要ある場合には、販売費および一般管理費と区別し別個の項目として記載することができる。

 

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第三章 標準原価の計算

四〇 標準原価算定の目的
標準原価算定の目的としては、おおむね次のものをあげることができる。
(一)  原価管理を効果的にするための原価の標準として標準原価を設定する。これは標準原価を設定する最も重要な目的である。
(二)  標準原価は、真実の原価として仕掛品、製品等のたな卸資産価額および売上原価の算定の基礎となる。
(三)  標準原価は、予算とくに見積財務諸表の作成に、信頼しうる基礎を提供する。
(四)  標準原価は、これを勘定組織の中に組み入れることによって、記帳を簡略化し、じん速化する。

 

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四一 標準原価の算定
標準原価は、直接材料費、直接労務費等の直接費および製造間接費について、さらに製品原価について算定する。
原価要素の標準は、原則として物量標準と価格標準との両面を考慮して算定する。
(一)  標準直接材料費
1  標準直接材料費は、直接材料の種類ごとに、製品単位当たりの標準消費量と標準価格とを定め、両者を乗じて算定する。
2  標準消費量については、製品の生産に必要な各種素材、部品等の種類、品質、加工の方法および順序等を定め、科学的、統計的調査により製品単位当たりの各種材料の標準消費量を定める。標準消費量は、通常生ずると認められる程度の減損、仕損等の消費余裕を含む。
3  標準価格は、予定価格又は正常価格とする。
(二)  標準直接労務費
1  標準直接労務費は、直接作業の区分ごとに、製品単位当たりの直接作業の標準時間と標準賃率とを定め、両者を乗じて算定する。
2  標準直接作業時間については、製品の生産に必要な作業の種類別、使用機械工具、作業の方法および順序、各作業に従事する労働の等級等を定め、作業研究、時間研究その他経営の実情に応ずる科学的、統計的調査により製品単位当たりの各区分作業の標準時間を定める。標準時間は、通常生ずると認められる程度の疲労、身体的必要、手待等の時間的余裕を含む。
3  標準賃率は、予定賃率又は正常賃率とする。
(三)  製造間接費の標準
製造間接費の標準は、これを部門別(又はこれを細分した作業単位別、以下これを「部門」という。)に算定する。部門別製造間接費の標準とは、一定期間において各部門に発生すべき製造間接費の予定額をいい、これを部門間接費予算として算定する。その算定方法は、第二章第四節三三の(四)に定める実際原価の計算における部門別計算の手続に準ずる。部門間接費予算は、固定予算又は変動予算として設定する。
1  固定予算
製造間接費予算を、予算期間において予期される一定の操業度に基づいて算定する場合に、これを固定予算となづける。各部門別の固定予算は、一定の限度内において原価管理に役立つのみでなく、製品に対する標準間接費配賦率の算定の基礎となる。
2  変動予算
製造間接費の管理をさらに有効にするために、変動予算を設定する。変動予算とは、製造間接費予算を、予算期間に予期される範囲内における種々の操業度に対応して算定した予算をいい、実際間接費額を当該操業度の予算と比較して、部門の業績を管理することを可能にする。
変動予算の算定は、実査法、公式法等による。
(1)  実査法による場合には、一定の基準となる操業度(以下これを「基準操業度」という。)を中心として、予期される範囲内の種々の操業度を、一定間隔に設け、各操業度に応ずる複数の製造間接費予算をあらかじめ算定列記する。この場合、各操業度に応ずる間接費予算額は、個々の間接費項目につき、各操業度における額を個別的に実査して算定する。この変動予算における基準操業度は、固定予算算定の基礎となる操業度である。
(2)  公式法による場合には、製造間接費要素を第二章第四節三三の(四)に定める方法により固定費と変動費とに分け、固定費は、操業度の増減にかかわりなく一定とし、変動費は、操業度の増減との関連における各変動費要素又は変動費要素群の変動費率をあらかじめ測定しておき、これにそのつどの関係操業度を乗じて算定する。
(四)  標準製品原価
標準製品原価は、製品の一定単位につき標準直接材料費、標準直接労務費等を集計し、これに標準間接費配賦率に基づいて算定した標準間接費配賦額を加えて算定する。標準間接費配賦率は固定予算算定の基礎となる操業度ならびにこの操業度における標準間接費を基礎として算定する。
標準原価計算において加工費の配賦計算を行なう場合には、部門加工費の標準を定める。その算定は、製造間接費の標準の算定に準ずる。

 

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四二 標準原価の改訂
標準原価は、原価管理のためにも、予算編成のためにも、また、たな卸資産価額および売上原価算定のためにも、現状に即した標準でなければならないから、常にその適否を吟味し、機械設備、生産方式等生産の基本条件ならびに材料価格、賃率等に重大な変化が生じた場合には、現状に即するようにこれを改訂する。

 

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四三 標準原価の指示
標準原価は、一定の文書に表示されて原価発生について責任をもつ各部署に指示されるとともに、この種の文書は、標準原価会計機構における補助記録となる。標準原価を指示する文書の種類、記載事項および様式は、経営の特質によって適当に定めるべきであるが、たとえば次のようである。
(一)  標準製品原価表
標準製品原価表とは、製造指図書に指定された製品の一定単位当たりの標準原価を構成する各種直接材料費の標準、作業種類別の直接労務費の標準および部門別製造間接費配賦額の標準を数量的および金額的に表示指定する文書をいい、必要に応じ材料明細表、標準作業表等を付属させる。
(二)  材料明細表
材料明細表とは、製品の一定単位の生産に必要な直接材料の種類、品質、その標準消費数量等を表示指定する文書をいう。
(三)  標準作業表
標準作業表とは、製品の一定単位の生産に必要な区分作業の種類、作業部門、使用機械工具、作業の内容、労働等級、各区分作業の標準時間等を表示指定する文章をいう。
(四)  製造間接費予算表
製造間接費予算表は、製造間接費予算を費目別に表示指定した費目別予算表と、これをさらに部門別に表示指定した部門別予算表とに分けられ、それぞれ予算期間の総額および各月別予算額を記載する。部門別予算表において、必要ある場合には、費目を変動費と固定費又は管理可能費と管理不能費とに区分表示する。

 

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第四章 原価差異の算定および分析

四四 原価差異の算定および分析
原価差異とは実際原価計算制度において、原価の一部を予定価格等をもって計算した場合における原価と実際発生額との間に生ずる差額、ならびに標準原価計算制度において、標準原価と実際発生額との間に生ずる差額(これを「標準差異」となづけることがある。)をいう。
原価差異が生ずる場合には、その大きさを算定記録し、これを分析する。その目的は、原価差異を財務会計上適正に処理して製品原価および損益を確定するとともに、その分析結果を各階層の経営管理者に提供することによって、原価の管理に資することにある。

 

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四五 実際原価計算制度における原価差異
実際原価計算制度において生ずる主要な原価差異は、おおむね次のように分けて算定する。
(一)  材料副費配賦差異
材料副費配賦差異とは、材料副費の一部又は全部を予定配賦率をもって材料の購入原価に算入することによって生ずる原価差異をいい、一期間におけるその材料副費の配賦額と実際額との差額として算定する。
(二)  材料受入価格差異
材料受入価格差異とは、材料の受入価格を予定価格等をもって計算することによって生ずる原価差異をいい、一期間におけるその材料の受入金額と実際受入金額との差額として算定する。
(三)  材料消費価格差異
材料消費価格差異とは、材料の消費価格を予定価格等をもって計算することによって生ずる原価差異をいい、一期間におけるその材料費額と実際発生額との差額として計算する。
(四)  賃率差異
賃率差異とは、労務費を予定賃率をもって計算することによって生ずる原価差異をいい、一期間におけるその労務費額と実際発生額との差額として算定する。
(五)  製造間接費配賦差異
製造間接費配賦差異とは、製造間接費を予定配賦率をもって製品に配賦することによって生ずる原価差異をいい、一期間におけるその製造間接費の配賦額と実際額との差額として算定する。
(六)  加工費配賦差異
加工費配賦差異とは、部門加工費を予定配賦率をもって製品に配賦することによって生ずる原価差異をいい、一期間におけるその加工費の配賦額と実際額との差額として算定する。
(七)  補助部門費配賦差異
補助部門費配賦差異とは、補助部門費を予定配賦率をもって製造部門に配賦することによって生ずる原価差異をいい、一期間におけるその補助部門費の配賦額と実際額との差額として算定する。
(八)  振替差異
振替差異とは、工程間に振り替えられる工程製品の価額を予定原価又は正常原価をもって計算することによって生ずる原価差異をいい、一期間におけるその工程製品の振替価額と実際額との差額として算定する。

 

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四六 標準原価計算制度における原価差額
標準原価計算制度において生ずる主要な原価差異は、材料受入価額、直接材料費、直接労務費および製造間接費のおのおのにつき、おおむね次のように算定分析する。
(一)  材料受入価格差異
材料受入価格差異とは、材料の受入価格を標準価格をもって計算することによって生ずる原価差異をいい、標準受入価格と実際受入価格との差異に、実際受入数量を乗じて算定する。
(二)  直接材料費差異
直接材料費差異とは、標準原価による直接材料費と直接材料費の実際発生額との差額をいい、これを材料種類別に価格差異と数量差異とに分析する。
1  価格差異とは、材料の標準消費価格と実際消費価格との差異に基づく直接材料費差異をいい、直接材料の標準消費価格と実際消費価格との差異に、実際消費数量を乗じて算定する。
2  数量差異とは、材料の標準消費数量と実際消費数量との差異に基づく直接材料費差異をいい、直接材料の標準消費数量と実際消費数量との差異に、標準消費価格を乗じて算定する。
(三)  直接労務費差異
直接労務費差異とは、標準原価による直接労務費と直接労務費の実際発生額との差額をいい、これを部門別又は作業種類別に賃率差異と作業時間差異とに分析する。
1  賃率差異とは、標準賃率と実際賃率との差異に基づく直接労務費差異をいい、標準賃率と実際賃率との差異に、実際作業時間を乗じて算定する。
2  作業時間差異とは、標準作業時間と実際作業時間との差額に基づく直接労務費差異をいい、標準作業時間と実際作業時間との差異に、標準賃率を乗じて算定する。
(四)  製造間接費差異
製造間接費差異とは、製造間接費の標準額と実際発生額との差額をいい、原則として一定期間における部門間接費差異として算定して、これを能率差異、操業度差異等に適当に分析する。

 

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第五章 原価差異の会計処理

四七 原価差異の会計処理
(一)  実際原価計算制度における原価差異の処理は、次の方法による。
1  原価差異は、材料受入価格差異を除き、原則として当年度の売上原価に賦課する。
2  材料受入価格差異は、当年度の材料の払出高と期末在高に配賦する。この場合、材料の期末在高については、材料の適当な種類群別に配賦する。
3  予定価格等が不適当なため、比較的多額の原価差異が生ずる場合、直接材料費、直接労務費、直接経費および製造間接費に関する原価差異の処理は、次の方法による。
(1)  個別原価計算の場合
次の方法のいずれかによる。
イ  当年度の売上原価と期末におけるたな卸資産に指図書別に配賦する。
ロ  当年度の売上原価と期末におけるたな卸資産に科目別に配賦する。
(2)  総合原価計算の場合
当年度の売上原価と期末におけるたな卸資産に科目別に配賦する。
(二)  標準原価計算制度における原価差異の処理は、次の方法による。
1  数量差異、作業時間差異、能率差異等であって異常な状態に基づくと認められるものは、これを非原価項目として処理する。
2  前記1の場合を除き、原価差異はすべて実際原価計算制度における処理の方法に準じて処理する。

 

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自己株式の消却の手続きと会計処理

自己株式の消却とは

自己株式の消却とは、会社が保有する自社の株式(自己株式;金庫株)のうち、特定の株式を消滅させることをいいます。

 

法律上の手続き・事務手続き

会社法の規定

自己株式の消却については、会社法178条に規定があります。

会社法

第六款 株式の消却

第百七十八条

1 株式会社は、自己株式を消却することができる。この場合においては、消却する自己株式の数(種類株式発行会社にあっては、自己株式の種類及び種類ごとの数)を定めなければならない。
2 取締役会設置会社においては、前項後段の規定による決定は、取締役会の決議によらなければならない。

また、自己株式の消却は発行済株式総数の減少を伴うため、登記に関する規定も参照する必要があります。

会社法

(変更の登記)
第九百十五条
1 会社において第九百十一条第三項各号又は前三条各号に掲げる事項に変更が生じたときは、二週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない。

 

(株式会社の設立の登記)
第九百十一条
3 第一項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。
九 発行済株式の総数並びにその種類及び種類ごとの数

手続きの流れ

1.消却する自己株式の数・種類の決定

  • まず、会社は、消却する自己株式の数を決定します(会社法178条1項)。種類株式発行会社の場合は、消却する自己株式の種類及び種類ごとの数を決定しなければなりません(同項)。
  • 取締役会設置会社においては、自己株式の消却の決定は、取締役会の決議によらなければなりません(同条2項)。株主総会の決議を不要とした理由は、自己株式の消却は既存株主に不利益を与えるおそれが少ないためです。
  • 取締役会非設置会社においては、自己株式の消却の決定機関について、明文の規定はありません。この点につき、次の2つの見解があります。
    • 株主総会の普通決議が必要である」とする説。理由は、会社法制定以前、有限会社における持分の消却に社員総会決議が要求されていたことから、これに準じて手続きをすべきため。この説を主張するのは、江頭憲治郎『株式会社法(第6版)』。
    • 取締役の過半数の決定(会社法348条2項)で足りる」とする説。理由は、①会社法に明文の規定がなく、②重要な決定といえないため。この説を主張するのは、『会社法コンメンタール〈4〉株式〈2〉』[伊藤雄司]。
  • 上場会社の場合は、取締役会の決議後、速やかに、適時開示を行います。なお、東京証券取引所の有価証券上場規程には「自己株式の消却」は重要事実として列挙されておりませんので(有価証券上場規程(東京証券取引所)第402条、日本取引所グループ|会社情報の適時開示制度参照)、会社が重要事実でないと判断すれば、適時開示を行わないことも考えられます。しかしながら、自己株式の消却は株価に影響を与える情報であるため、軽微なものでない限りは、適時開示するのが通常だと考えられます。
  • 株式等振替制度を利用している会社(主に上場会社)の場合は、決議後(適時開示を行う場合にはその後)速やかに、証券保管振替機構(ほふり)に対して通知手続きを行う必要があります(証券保管振替機構|振替株式の発行者|4.自己株式の消却参照)
  • 証券保管振替機構(ほふり)への通知とは別に、自己株式を記録している口座を開設している証券会社に対しても、連絡する必要があります。

2.消却する株式を特定する意思表示(効力発生日)

  • 会社は、消却する株式を特定する意思を表示する必要があります。例えば、株主名簿から消却した自己株式に関する事項を抹消する、株券発行会社であれば株券を破棄する、などです。
  • こうして会社の何らかの行為によって消却する株式が特定されない限り、消却の効力が生じるのを認めようがないといえます(東京地判平成2年3月29日)。
  • 会社が「消却する株式を特定する意思を表示」した日が、自己株式の消却の効力発生日となる、と考えられます。なお、実務上は、先ず取締役会の決議で効力発生日を決定してから、その日に「消却する株式を特定する意思を表示」するケースが普通のようです。
  • 上場準備会社で、株主名簿管理人(証券代行会社)に株主名簿の管理を委託している場合は、株主名簿管理人に通知して、株主名簿から消却した自己株式に関する事項を抹消します。
  • 株式等振替制度を利用している会社(主に上場会社)の場合は、証券保管振替機構の非営業日(土・日・祝日等)を効力発生日とすることができません(証券保管振替機構|振替株式の発行者|4.自己株式の消却参照)。参考に、「社債、株式等の振替に関する法律」の関係する規定を掲載します。

社債、株式等の振替に関する法律

(株式の消却に関する会社法の特例)
第百五十八条
1 発行者が自己の振替株式を消却しようとするときは、当該振替株式について抹消の申請をしなければならない。
2 振替株式の消却は、第百三十四条第四項第一号の減少の記載又は記録がされた日にその効力を生ずる。

 

(抹消手続)
第百三十四条
1 特定の銘柄の振替株式について、抹消の申請があった場合には、振替機関等は、第四項から第六項までの規定により、当該申請において第三項の規定により示されたところに従い、その備える振替口座簿における減少の記載若しくは記録又は通知をしなければならない。
2 前項の申請は、発行者が、抹消によりその口座(顧客口座を除く。)において減少の記載又は記録がされる口座を開設した直近上位機関に対して行うものとする。
3 発行者は、第一項の申請において、抹消により減少の記載又は記録がされるべき振替株式の銘柄及び数を示さなければならない。
4 第一項の申請があった場合には、当該申請を受けた振替機関等は、遅滞なく、次に掲げる措置を執らなければならない。
一 発行者の口座の保有欄における前項の数についての減少の記載又は記録
二 当該振替機関等が口座管理機関である場合には、直近上位機関に対する前項の規定により示された事項の通知
5 前項第二号の通知があった場合には、当該通知を受けた振替機関等は、直ちに、次に掲げる措置を執らなければならない。
一 当該通知をした口座管理機関の口座の顧客口座における第三項の数についての減少の記載又は記録
二 当該振替機関等が口座管理機関である場合には、直近上位機関に対する前項第二号の規定により通知を受けた事項の通知
6 前項の規定は、同項第二号(この項において準用する場合を含む。)の通知があった場合における当該通知を受けた振替機関等について準用する。

3.自己株式の消却後の登記手続き

  • 消却した株式の数だけ、会社の発行済株式総数が減少します。発行済株式総数が減少するため、その効力発生日から2週間以内に、本店所在地において、発行済株式総数の変更にかかる登記を行う必要があります(会社法915条1項、911条3項9号)。
  • 定款所定の発行可能株式総数(授権枠)は、当然には減少しません。

 

会計処理

会計基準

自己株式の消却の会計処理については、「企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」に規定されています。

自己株式の消却

自己株式を消却した場合には、消却手続が完了したときに、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額します(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第11項)。

会計理論上の論点として、消却の対象となった自己株式の帳簿価額を、資本剰余金から減額する(「払込資本の払戻し」と考える)か、利益剰余金から減額する(「株主に対する会社財産の分配」と考える)かが問題となります。この点、「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」では、会社計算規則第24条第3項の規定(優先的にその他資本剰余金から減額する規定)に合わせ、その他資本剰余金から減額することとしました(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第44・45項参照)。

消却手続を完了していない自己株式が貸借対照表日にある場合

自己株式の消却を取締役会等で意思決定しただけでは、法的に発行済株式数が減少するわけではないため、消却手続が完了したときに自己株式の消却の会計処理をします(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第46項参照)。

ただし、取締役会等による会社の意思決定によって自己株式を消却する場合に、決議後消却手続を完了していない自己株式が貸借対照表日にあり、当該自己株式の帳簿価額又は株式数に重要
性があるときであって、かつ、連結株主資本等変動計算書又は個別株主資本等変動計算書の注記事項として自己株式の種類及び株式数に関する事項を記載する場合(企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」第9項(1)②及び(2))には、決議後消却手続を完了していない自己株式の帳簿価額種類及び株式数を当該事項に併せて注記します(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第22項)。

その他資本剰余金の残高が負の値になった場合の取扱い

上記の会計処理の結果、その他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、会計期間末において、その他資本剰余金を零とし、当該負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額します(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第12項)。

その他資本剰余金を零とする理由は、その他資本剰余金は、払込資本から配当規制の対象となる資本金及び資本準備金を控除した残額であり、払込資本の残高が負の値となることはあり得ない以上、払込資本の一項目として表示するその他資本剰余金について、負の残高を認めることは適当ではないためです。よって、その他資本剰余金が負の残高になる場合は、利益剰余金で補てんするほかないと考えられ、それは資本剰余金と利益剰余金の混同にはあたらないと判断されます(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第41項)。

また、その他資本剰余金の残高を超える自己株式処分差損が発生した場合の会計処理については、「負の値となったその他資本剰余金を、その都度、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)で補てんし、その残高を確定する方法 」が考えられます。しかしながら、これについては、その他資本剰余金の額の増減が同一会計期間内に反復的に起こり得ること、そして、その他資本剰余金の額の増加と減少の発生の順番が異なる場合に結果が異なることなどを理由に、「(2)負の値となったその他資本剰余金を、会計期間末において、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)で補てんし、その残高を確定する方法 」が適切と考えました(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第42項)。

したがって、例えば、中間決算日又は会社法における臨時決算日(会社法第441条第1項)において、その他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、中間決算等において、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)で補てんすることとなります。また、年度決算においては、中間決算等における処理を洗替処理することとなります(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第42項)。

自己株式の処分及び消却時の帳簿価額の算定

自己株式の処分及び消却時の帳簿価額は、会社の定めた計算方法に従って、株式の種類ごとに算定します(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第13項)。

会計基準では、計算方法については、「会社の定めた計算方法に従って」と規定されているだけで、特に限定されておりません。

また、会計基準では「会社の定めた計算方法に従って、株式の種類ごとに算定する」と規定されておりますので、移動平均法、総平均法、個別法等いくつかの方法を、自己株式の種類ごとに選択適用することが認められている、と考えられます。

自己株式の消却に関する付随費用

自己株式の消却に関する付随費用は、損益計算書の営業外費用に計上します(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第14項)。

これは、付随費用を財務費用と考え、損益取引とする方法です。付随費用を財務費用とする考えは、付随費用は株主との間の資本取引ではない点に着目し、会社の業績に関係する項目であるとの見方に基づきます(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第51項参照)。

一方、国際的な会計基準で採用されている方法によれば、消却時の費用は自己株式処分差額等の調整(その他資本剰余金の増減)とします。これは、付随費用を自己株式本体の取引と一体と考え、資本取引とする方法です。この考えは、自己株式の消却時の付随費用は、形式的には株主との取引ではないが、自己株式本体の取引と一体であるとの見方に基づいております(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第52項参照)。

なお、自己株式の消却に関する付随費用(消却のための手数料等)としては、登記事項の変更に伴う登録免許税や司法書士に支払う報酬などが考えられます。

会社計算規則

自己株式の消却の会計処理については、会社計算規則24条に規定があります。

会社計算規則

第六款 株式の消却

第二十四条

1 株式会社が当該株式会社の株式を取得する場合には、その取得価額を、増加すべき自己株式の額とする。
2 株式会社が自己株式の処分又は消却をする場合には、その帳簿価額を、減少すべき自己株式の額とする。
3 株式会社が自己株式の消却をする場合には、自己株式の消却後のその他資本剰余金の額は、当該自己株式の消却の直前の当該額から当該消却する自己株式の帳簿価額を減じて得た額とする。

仕訳例

自己株式を消却したとき(消却時)

(例)消却した自己株式の帳簿価額が100の場合

(借方)その他資本剰余金 100 (貸方)自己株式 100

その他資本剰余金がマイナスとなった場合の仕訳(期末)

(例)その他資本剰余金の期末残高が△50のとき

(借方)繰越利益剰余金 50 (貸方)その他資本剰余金 50

この仕訳により、その他資本剰余金の期末残高がゼロとなる。

繰越利益剰余金から減額する仕訳は、必ず期末に行います(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第12項参照)

よって、自己株式の消却時に繰越利益剰余金から減額する仕訳は、間違いです。

 

参考文献

企業会計基準委員会『企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準』2015年

髙橋美加他『会社法』弘文堂・2016年


SAPの「原価センタ」と「利益センタ」の違い

経理業務でSAPを使用していると発生する疑問の1つとして、「原価センタ」と「利益センタ」の違いがある。

それについて、“SAP CO CONTROLLING SAP ERP ECC6, SAP R/3 4.70”では次のように書かれている。

The Cost Center merely represents costs. The Profit Center, on the other hand, is a responsibility center for the profit which is nothing but the balance of costs and revenues.

要するに、原価センタ(Cost Center)は費用だけが集計される(費用のみに責任を持つ)のに対して、利益センタ(Profit Center)は費用と収益の差額である利益が集計される(利益に責任を持つ)のである。

「利益センタ」を上手く活用出来るのは、事業部制(カンパニー制)組織を採っている企業だけだと思われる。
なぜなら、事業部制(カンパニー制)組織を採っていない企業が利益センタを活用するためには、共通部門(例えば、総務・人事・経理・法務・経営企画・情報システムなどの間接部門・管理部門、研究開発部門など)で発生した費用を各利益センタに適切に配分するロジックが必要だからである。
しかしながら、そのようなロジックを編み出すことは容易でない。
それゆえ、利益センタを活用することを諦め、1つの会社(会社コード)で1つの利益センタしか設定していない、という事例も多いのではないだろうか。
(厳密に言うと、ダミーの利益センタが必要なので、1つの会社(会社コード)で2つ以上の利益センタを設定する必要がある。)