監査基準の設定について(平成14年1月25日)




監査基準の改訂について

平成14年1月25日

企業会計審議会

一 経緯

1 審議の背景

公認会計士(監査法人を含む。)による財務諸表の監査(以下「公認会計士監査」という。)は、財務諸表の信頼性を担保するための制度であり、その規範となる監査基準は、財務諸表の作成規範である会計基準とともに、適正なディスクロージャーを確保するための重要なインフラストラクチャーである。

我が国の監査基準は、証券取引法に基づく公認会計士監査が昭和25年に導入されたことに伴い、「監査基準」及び「監査実施準則」という構成で設けられ、その後、昭和31年には正規の監査の実施に伴い「監査報告準則」も加わって今日の監査基準の構成が固まった。また、昭和40年から41年にかけて粉飾決算事件の発生等に対処する「監査実施準則」及び「監査報告準則」の大幅な改訂、昭和57年には企業会計原則の一部修正に伴う改訂、昭和58年には後発事象に関する改訂が行われた。さらに、平成元年から平成3年にかけての「監査基準」、「監査実施準則」及び「監査報告準則」の改訂においては、いわゆるリスク・アプローチの考え方が採用され、新たな内部統制概念の導入、監査報告書における特記事項の記載、経営者確認書の入手の義務づけ等による監査基準の充実強化と個別具体的な監査手続の削除による監査基準の純化が図られたところである。直近では、平成10年に、キャッシュ・フロー計算書が証券取引法上の財務諸表に加えられたことに対応して若干の改訂が行われ、現在の監査基準となっている。

平成3年の監査基準の改訂から既に10年余が経過しており、我が国企業の活動の複雑化や資本市場の国際的な一体化を背景として、公認会計士監査による適正なディスクロージャーの確保とともに、公認会計士監査の質の向上に対する要求が国際的にも高まっている。さらに、最近、経営が破綻した企業の中には、直前の決算において公認会計士の適正意見が付されていたにも関わらず、破綻後には大幅な債務超過となっているとされているものや、破綻に至るまで経営者が不正を行っていたとされるものもある。こういった事態に対し、なぜ、公認会計士監査でこれらを発見することができなかったのか、公認会計士監査は果たして有効に機能していたのか等の厳しい指摘や批判が行われている。

このような状況を背景として、平成11年10月に開催された当審議会総会において、「監査基準等の一層の充実」を審議事項とすることが決定され、第二部会において審議が行われることとなった。

2 審議の経緯

当審議会では、国際的な監査基準の動向をも踏まえ、「監査基準」、「監査実施準則」及び「監査報告準則」全般にわたって改訂すべき事項について網羅的に検討を行い、平成12年6月に「監査基準等の一層の充実に関する論点整理」(以下「論点整理」という。)を公表した。

論点整理では、企業が公表する財務諸表に対して公認会計士が独立の立場から実施する監査について、その信頼性の一層の向上を各方面から求められていることが明らかになったとの認識が示された。その背景を要約すれば、(1)過剰流動性が現出させた飽和経済の崩壊に伴う企業破綻、あるいは信用力の低下が、企業の公表する財務諸表だけでなく、その信頼性に関し独立の立場から職業的専門家としての意見を表明する監査の機能に対しても批判を引き起こしたこと、(2)近年の情報技術(IT)の高度化は世界的な規模での市場経済化を促し、資本市場ならびに企業活動の国際化も進展させ、企業が公表する財務諸表の監査に対しても、国際的な水準での機能向上が求められていることが挙げられる。

このような認識に基づき、我が国のコーポレート・ガバナンスの変化や国際的な監査基準の展開をも視野に入れ、監査基準の具体的な改訂について審議を行った。平成13年6月には、財務諸表の重要な虚偽の表示の原因となる不正を発見する姿勢の強化、ゴーイング・コンサーン(継続企業の前提)問題への対処、リスク・アプローチの徹底、新たな会計基準への対応及び監査報告書の充実を図ることを改訂の重要なポイントとし、前文を含め監査基準を全面的に見直した「監査基準の改訂に関する意見書(公開草案)」を公表して、広く各界の意見を求めた。当審議会は、寄せられた意見を参考にしつつ更に審議を行い、公開草案の内容を一部修正して、これを「監査基準の改訂に関する意見書」として公表することとした。

二 改訂基準の性格、構成及び位置付け

1 改訂基準の性格

監査基準の基本的性格は、昭和25年に我が国に監査基準が設けられた折、「監査基準は、監査実務の中に慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを帰納要約した原則であつて、職業的監査人は、財務諸表の監査を行うに当り、法令によつて強制されなくとも、常にこれを遵守しなければならない。」と明示されたところであり、今日においても、その性格は変わるものではない。

しかし、前述のように、近年、資本市場や企業活動の国際化、企業が採用する情報技術の高度化、さらに連結財務諸表原則の改訂を初めとする会計基準の改訂や新設など、我が国における公認会計士監査をめぐる環境は大きく変貌している。これらの動きに対応して、監査人個々人のみならず監査事務所などの組織としても監査の実施体制を充実し、さらに監査の質の管理と向上に注意を払う必要性が認識されているところであり、また、これらは国際的な動向とも歩調を合わせることが求められている。

一方、国民経済的な視点からは、市場経済が一層の進展を見せ、いわゆる投資者の自己責任原則が種々の方面で徹底されるようになるにつれ、企業が公表する財務情報の信頼性の確保について、従来とは比較できないほどに社会の期待と関心が高まっている。当然に、公認会計士監査に対しても、その充実が求められている。

このような背景を踏まえ、今般の改訂では、単に我が国の公認会計士監査の最大公約数的な実務を基準化するという方針ではなく、将来にわたっての公認会計士監査の方向性を捉え、また、国際的にも遜色のない監査の水準を達成できるようにするための基準を設定することを目的としている。さらに、公認会計士監査に対する社会の種々の期待に可能な範囲で応えることも改訂基準の意図したところである。

2 改訂基準の構成

今般の改訂では、諸外国のように各項目ごとに個々の基準を設けるという形式は採らず、一つの基準とする形式は維持することとしたが、「監査実施準則」及び「監査報告準則」を廃止し、監査基準という一つの枠組みの中で、一般基準、実施基準及び報告基準の区分とした。その上で、実施基準及び報告基準について基本原則を置くとともに、項目を区分して基準化する方法を採った。
「監査実施準則」及び「監査報告準則」は、監査慣行が十分に確立していない状況において、抽象的な監査基準を補足するものとして設けられたという経緯がある。平成3年の監査基準の改訂において、「監査実施準則」の純化が大幅に行われ、監査基準を補足する具体的な指針を示す役割は日本公認会計士協会に委ねられることとなった。その後、日本公認会計士協会から、逐次、監査に係る具体的な指針が公表され、相当の整備が行われている。このような状況を踏まえると、各準則の位置付けが曖昧なものとなることから、各準則を廃止し、監査基準とこれを具体化した日本公認会計士協会の指針により、我が国における一般に公正妥当と認められる監査の基準の体系とすることが適切と判断した。なお、改訂基準の解釈にあたっては、この前文に示された趣旨を含めて理解することが必要である。

3 監査基準の位置付け

改訂基準における監査の目的が示す枠組み及びこれから引き出されたそれぞれの基準は、証券取引法に基づく監査のみならず、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律に基づく監査など、財務諸表の種類や意見として表明すべき事項を異にする監査も含め、公認会計士監査のすべてに共通するものである。

一方、監査に類似する証明の業務としていわゆるレビューがある。レビューは、諸外国では、財務諸表には会計基準に照らして特に修正を要する重要な事項は見当たらなかったことを、限定した手続により消極的に証明する業務であるとされており、財務諸表全体が適正であるかどうかについて意見の表明を行う監査とは、その保証水準を明確に異にするものである。したがって、レビューが監査の一環又は一部であると誤解され、監査と混同されると、却って監査に対する信頼を損ねる虞が生じることから、レビューについては監査基準の対象としていない。このような消極的な証明を行う業務については、種々異なる需要があるので、日本公認会計士協会が適切な指針を作成する方が、実務に柔軟に対応することができると考えられる。

三 主な改訂点とその考え方

1 監査の目的

従来、監査基準は監査それ自体の目的を明確にしてこなかったために、監査の役割について種々の理解を与え、これがいわゆる「期待のギャップ」を醸成させてきたことは否めない。また、監査の目的を明確にすることにより、監査基準の枠組みも自ずと決まることになる。このような趣旨から、改訂基準において監査の目的を明らかにすることとしたが、その内容については、以下の点に留意して理解することが必要である。

(1) 監査の目的は、経営者の作成した財務諸表に対して監査人が意見を表明することにあり、財務諸表の作成に対する経営者の責任と、当該財務諸表の適正表示に関する意見表明に対する監査人の責任との区別(二重責任の原則)を明示した。

(2) 監査人が表明する意見は、財務諸表が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を表明したものであることを明確にした。

(3) 改訂基準では、基本的な構成からなる財務諸表に対する監査を前提として、財務諸表が企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適正に表示しているかどうかについて意見を表明するとしているが、監査の対象となる財務諸表の種類、あるいは監査の根拠となる制度や契約事項が異なれば、それに応じて、意見の表明の形式は異なるものとなる。

(4) 適正意見と虚偽の表示との関係について、監査人が財務諸表は適正に表示されているとの意見を表明することには、財務諸表には全体として重要な虚偽の表示がないことの合理的な保証を得たとの自らの判断が含まれていることを明確にした。

(5) 合理的な保証を得たとは、監査が対象とする財務諸表の性格的な特徴(例えば、財務諸表の作成には経営者による見積りの要素が多く含まれること)や監査の特性(例えば、試査で行われること)などの条件がある中で、職業的専門家としての監査人が一般に公正妥当と認められる監査の基準に従って監査を実施して、絶対的ではないが相当程度の心証を得たことを意味する。

なお、監査報告書における適正意見の表明は、財務諸表及び監査報告書の利用者からは、結果的に、財務諸表には全体として重要な虚偽の表示がないことについて、合理的な範囲での保証を与えているものと理解されることになる。

2 一般基準の改訂について

近年の監査を巡る環境の変化は、従来の一般基準により監査人に求められていた専門的能力や実務経験、独立性、公正不偏性、注意義務などの要件を一層徹底させ、また、監査人の自主的かつ道義的な判断や行動に任せていた点を制度的に担保する方向へと動かすものとなっていることも事実である。それらの現代的な動向は従来の監査基準では必ずしも十分に反映されていなかったので、改訂基準は以下の点でこれを改めることとした。

(1) 専門的能力の向上と知識の蓄積

監査人は、近年の資本市場の国際化、企業の大規模化や取引活動の複雑化、会計処理の技術的進展、会計基準の高度の専門化などに対応するために、職業的専門家としての能力の維持・研鑚に努め、実務経験を積み、これらの能力や知識を監査の実務に活かすことにより、これまで以上に監査に対する社会の期待に応えることが求められている。

(2) 公正不偏の態度と独立性の保持

監査人は、監査の実施に当たって、精神的に公正不偏の態度を保持することが求められ、独立性の保持を最も重視しなければならない。そのため、公正不偏な態度に影響を及ぼす可能性という観点から、独立の立場を損なう特定の利害関係を有することはもとより、このような関係を有しているとの疑いを招く外観を呈することがあってはならないことを明確にした。

(3) 職業的懐疑心

監査人としての責任の遂行の基本は、職業的専門家としての正当な注意を払うことにある。その中で、監査という業務の性格上、監査計画の策定から、その実施、監査証拠の評価、意見の形成に至るまで、財務諸表に重要な虚偽の表示が存在する虞に常に注意を払うことを求めるとの観点から、職業的懐疑心を保持すべきことを特に強調した。

(4) 不正等に起因する虚偽の表示への対応

財務諸表の虚偽の表示は、経営者による会計方針の選択や適用などの際の判断の誤りのみならず事務的な過誤によってももたらされるが、重要な虚偽の表示の多くは、財務諸表の利用者を欺くために不正な報告(いわゆる粉飾)をすること、あるいは、資産の流用などの行為を隠蔽するために意図的に虚偽の記録や改竄等を行うことに起因すると考えられる。そこで、監査人はこのような不正等について特段の注意を払うとともに、監査の過程において不正等を発見した場合には、経営者等に適切な対応を求めるとともに、その財務諸表への影響について評価することを求めることとした。

なお、違法行為については、それ自体を発見することが監査人の責任ではなく、その判断には法律の専門的な知識が必要となることも多い。また、違法行為は必ずしも財務諸表の重要な虚偽の表示の原因となるものではないが、監査人が重要な虚偽の表示につながる虞のある違法行為を発見した場合には、不正等を発見した場合に準じて適切な対応をとることになる。

(5) 監査調書

企業の大規模化や企業活動の複雑化は、とりもなおさず監査人の膨大な作業と高度な判断を要求するが、それらの作業や判断の質を自らあるいは組織的に管理するためには、監査調書の作成が不可欠である。また、監査人は自らの責任を問われるような事態に対処し、説明責任を果たすためにも、監査計画の策定から意見の形成に至るまでの監査全体について、判断の過程も含めて記録を残すことを求めることとした。なお、今後、コンピュータを利用して監査調書を作成することも視野に入れ、特に、文書による保存という表現は用いていない。

(6) 監査の質の管理

財務諸表の監査に携わる監査人に対して、自らの監査業務の質の確保に十全な注意を払うとともに、組織としても監査業務の質を担保するための管理の方針と手続を定め、さらに、その実効性の確認までを求めることを明確にした。監査業務の質の確保は、監査補助者の監督、他の監査人の監査結果の利用などに関しても同様に求められるものである。また、監査業務の質の確保には、新規に監査契約を締結する際における調査や前任監査人との引き継ぎ等も含まれる。

(7) 守秘義務

監査人が監査業務上知り得た事項を正当な理由なく他に漏らしたり、窃用することは、職業倫理の上から許されないことは当然であり、そのような行為は監査を受ける企業との信頼関係を損ない、監査業務の効率的な遂行を妨げる原因ともなりかねないことから、敢えて一般基準の一つとして維持することとした。ただし、監査人の交代に当たっての前任監査人からの引継ぎ、親子会社で監査人が異なるときに親会社の監査人が子会社の監査人から情報を入手すること、監査の質の管理のために必要な外部の審査を受けることなどは監査業務の充実に関連することであり、そのような場合には、関係者間の合意を得るなどにより、守秘義務の解除を図る必要がある。

3 リスク・アプローチの明確化について

(1) リスク・アプローチの意義

平成3年の監査基準の改訂でリスク・アプローチの考え方をとり入れたところであるが、なおも我が国の監査実務に浸透するには至っていない。その原因の一端は監査基準の中でリスク・アプローチの枠組みが必ずしも明確に示されなかったことにもある。しかし、リスク・アプローチに基づく監査は、重要な虚偽の表示が生じる可能性が高い事項について重点的に監査の人員や時間を充てることにより、監査を効果的かつ効率的なものとすることができることから、国際的な監査基準においても採用されているものである。我が国の監査実務においてもさらなる浸透を図るべく、改訂基準ではリスク・アプローチに基づく監査の仕組みをより一層明確にした。

(2) リスクの諸概念及び用語法

従来「監査上の危険性」としていた用語を国際的な用語法に改めて「監査リスク」とし、固有リスク、統制リスク、発見リスクという三つのリスク要素と監査リスクの関係を明らかにすることとした。監査実務において、これらのリスクは、実際には複合的な状態で存在することもあり、必ずしも明確に切りわけられるものではないが、改訂基準ではリスク・アプローチの基本的な枠組みを示すことを主眼としており、実際の監査においてはより工夫した手続が用いられることになる。なお、改訂基準におけるこれらの用語は以下の意味で用いられている。

①「監査リスク」とは、監査人が、財務諸表の重要な虚偽の表示を看過して誤った意見を形成する可能性をいう。

②「固有リスク」とは、関連する内部統制が存在していないとの仮定の上で、財務諸表に重要な虚偽の表示がなされる可能性をいい、経営環境により影響を受ける種々のリスク、特定の取引記録及び財務諸表項目が本来有するリスクからなる。

③「統制リスク」とは、財務諸表の重要な虚偽の表示が、企業の内部統制によって防止又は適時に発見されない可能性をいう。

④「発見リスク」とは、企業の内部統制によって防止又は発見されなかった財務諸表の重要な虚偽の表示が、監査手続を実施してもなお発見されない可能性をいう。

(3) リスク・アプローチの考え方

リスク・アプローチに基づく監査の実施においては、監査リスクを合理的に低い水準に抑えることが求められる。すなわち、監査人の権限や監査時間等には制約もある中で、財務諸表の利用者の判断を誤らせることになるような重要な虚偽の表示を看過するリスクを合理的な水準に抑えることが求められるのである。このため、固有リスクと統制リスクとを評価することにより、虚偽の表示が行われる可能性に応じて、監査人が自ら行う監査手続やその実施の時期及び範囲を策定するための基礎となる発見リスクの水準を決定することが求められる。例えば、固有リスク及び統制リスクが高い(虚偽の表示が行われる可能性が高い)と判断したときは、自ら設定した合理的な監査リスクの水準が達成されるように、発見リスクの水準を低く(虚偽の表示を看過する可能性を低く)設定し、より詳細な監査手続を実施することが必要となる。また、固有リスク及び統制リスクが低いと判断したときは、発見リスクを高めに設定し、適度な監査手続により合理的な監査リスクの水準が達成できることとなる。このように、固有リスクと統制リスクの評価を通じて、発見リスクの水準が決定される。

(4) リスク評価の位置付け

このようなリスク・アプローチの考え方は、虚偽の表示が行われる可能性の要因に着目し、その評価を通じて実施する監査手続やその実施の時期及び範囲を決定することにより、より効果的でかつ効率的な監査を実現しようとするものである。これは、企業が自ら十分な内部統制を構築し適切に運用することにより、虚偽の表示が行われる可能性を減少させるほど、監査も効率的に実施され得ることにもなる。したがって、リスク・アプローチに基づいて監査を実施するためには、監査人による各リスクの評価が決定的に重要となる。そのために、景気の動向、企業が属する産業の状況、企業の社会的信用、企業の事業内容、経営者の経営方針や理念、情報技術の利用状況、事業組織や人的構成、経営者や従業員の資質、内部統制の機能、その他経営活動に関わる情報を入手することが求められる。監査人がこれらの情報の入手やリスクの評価を行うに当たっては、経営者等とのディスカッションが有効であると考えられ、こういった手法を通じて、経営者等の認識や評価を理解することが重要となる。

4 監査上の重要性について

監査上の重要性は、監査計画の策定と監査の実施、監査証拠の評価ならびに意見形成のすべてに関わる監査人の判断の規準であり、次のように適用される。

(1) 監査人は、監査計画の策定に当たり、財務諸表の重要な虚偽の表示を看過しないようにするために、容認可能な重要性の基準値(通常は、金額的な数値が設けられる)を決定し、これをもとに、達成すべき監査リスクの水準も勘案しながら、特定の勘定や取引について実施すべき監査手続、その実施の時期及び範囲を決定し、監査を実施する。

(2) 監査人は、監査の実施の過程で判明した重要な虚偽の表示につながる可能性のある事項については、その金額的影響及び質的影響(例えば、少額であっても他の関連項目や次年度以降に重要な影響を与える可能性がある)を検討し、必要であれば、監査の実施の結果を見直したり、追加の監査手続を実施するが、このような金額的・質的影響の評価に関わる判断の
-10-規準も監査上の重要性の一部となる。

(3) 監査人は、監査意見の形成に当たって、会計方針の選択やその適用方法、あるいは財務諸表の表示方法について不適切な事項がある場合に、当該事項を除外した上で適正とするか又は財務諸表を不適正とするかを判断するが、この判断の規準も監査上の重要性を構成する。

(4)監査人は、監査を実施する上で一部の監査手続を実施できなかったり、必要な証拠の提供を得られないなどの制約を受けた場合に、当該事実が影響する事項を除外した上で意見を表明するか又は意見の表明をしないかを判断するが、この場合の判断の規準も監査上の重要性の一部となる。

5 内部統制の概念について

リスク・アプローチを採用する場合、アプローチを構成する各リスクの評価が肝要となるが、なかでも統制リスクの評価は監査の成否の鍵となる。監査人としては、企業に内部統制が整備されていない場合には、意見形成の合理的な基礎を得ることが著しく困難なものとなる。したがって、企業としても、効果的かつ効率的な監査を受けるためには内部統制の充実を図ることが欠かせないことになる。十分かつ適切に内部統制が運用されている企業については、利用し得る範囲において内部監査との連携等も考慮して、一層の効果的かつ効率的な監査が行われることが期待される。監査人としても、内部統制の重要な欠陥を発見した場合には、経営者等にその改善を促すことが望ましい。

ここで、内部統制とは、企業の財務報告の信頼性を確保し、事業経営の有効性と効率性を高め、かつ事業経営に関わる法規の遵守を促すことを目的として企業内部に設けられ、運用される仕組みと理解される。

内部統制は、(1)経営者の経営理念や基本的経営方針、取締役会や監査役の有する機能、社風や慣行などからなる統制環境、(2)企業目的に影響を与えるすべての経営リスクを認識し、その性質を分類し、発生の頻度や影響を評価するリスク評価の機能、(3)権限や職責の付与及び職務の分掌を含む諸種の統制活動、(4)必要な情報が関係する組織や責任者に、適宜、適切に伝えられることを確保する情報・伝達の機能、(5)これらの機能の状況が常時監視され、評価され、是正されることを可能とする監視活動という5つの要素から構成され、これらの諸要素が経営管理の仕組みに組み込まれて一体となって機能することで上記の目的が達成される。

このような内部統制の概念と構成要素は国際的にも共通に理解されているものであるが、それぞれの企業において、具体的にどのような内部統制の仕組みを構築し、どのように運用するかということについては、各国の法制や社会慣行あるいは個々の企業の置かれた環境や事業の特性等を踏まえ、経営者自らが、ここに示した内部統制の機能と役割を効果的に達成し得るよう工夫していくべきものである。

なお、監査人による統制リスクの評価対象は、基本的に、企業の財務報告の信頼性を確保する目的に係る内部統制であるが、そのための具体的な仕組み及び運用の状況は企業によって異なるため、監査人が内部統制を評価するに当たっては上記5つの要素に留意しなければならない。

6 継続企業の前提について

(1) 継続企業の前提に対する対処

企業が将来にわたって事業活動を継続するとの前提(以下「継続企業の前提」という。)について、監査人が検討することに対する社会の期待が存在する。背景には、近年我が国で企業破綻の事例が相次ぎ、利害関係者の要望が強くなったことがある。さらに、すでに米国をはじめとする主要国の監査基準、ならびに国際監査基準(ISA)は、継続企業の前提に関して監査人が検討を行うことを義務づけていることからも、改訂基準で導入することが適当と判断したものである。

(2) 監査上の判断の枠組み

継続企業の前提に関わる監査基準のあり方としては、監査人の責任はあくまでも二重責任の原則に裏付けられたものとしている。経営者は、財務諸表の作成に当たって継続企業の前提が成立しているかどうかを判断し、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況について、適切な開示を行わなければならない。したがって、継続企業の前提に重要な疑義が認められる場合においても、監査人の責任は、企業の事業継続能力そのものを認定し、企業の存続を保証することにはなく、適切な開示が行われているか否かの判断、すなわち、会計処理や開示の適正性に関する意見表明の枠組みの中で対応することにある。

監査人による継続企業の前提に関する検討は、経営者による継続企業の前提に関する評価を踏まえて行われるものである。具体的には、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況の有無、合理的な期間(少なくとも決算日から1年間)について経営者が行った評価、当該事象等を解消あるいは大幅に改善させるための経営者の対応及び経営計画について検討する。

その結果、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況が存在し、当該事象等の解消や大幅な改善に重要な不確実性が残るため、継続企業の前提に重要な疑義が認められる場合には、その疑義に関わる事項が財務諸表において適切に開示されていれば(他に除外すべき事項がない場合には)無限定適正意見を表明し、それらの開示が適切でなければ除外事項を付した限定付適正意見を表明するか又は不適正意見を表明する。なお、無限定適正意見を表明する場合には、監査報告書において、財務諸表が継続企業の前提に基づき作成されていることや当該重要な疑義の影響が財務諸表に反映されていないことなどを含め、当該重要な疑義に関する開示について情報を追記することになる。また、経営者が適切な評価を行わず、合理的な経営計画等が経営者から提示されない場合には、監査範囲の制約に相当することとなり、除外事項を付した限定付適正意見を表明するか又は意見を表明しない。ただし、事業の継続が困難であり継続企業の前提が成立していないことが一定の事実をもって明らかなときは不適正意見を表明することになる。

これらは、基本的に国際的ないし主要国の監査基準に沿ったものである。要は、企業の事業継続能力に関わる情報の財務諸表における適切な開示を促すことが継続企業の前提に関わる監査基準の考え方である。

(3) 継続企業の前提に関わる開示

継続企業の前提に影響を与える可能性がある事象や状況を余り広範に捉えると、その影響の重要度や発現時期が混淆し、却って投資判断に関する有用性を損なうとともに、監査人が対処できる限界を超えると考えられる。したがって、公認会計士監査においては、相当程度具体的であってその影響が重要であると認められるような、重要な疑義を抱かせる事象又は状況についてのみ対処することとした。

継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況としては、企業の破綻の要因を一義的に定義することは困難であることから、財務指標の悪化の傾向、財政破綻の可能性等概括的な表現を用いている。より具体的に例示するとすれば、財務指標の悪化の傾向としては、売上の著しい減少、継続的な営業損失の発生や営業キャッシュ・フローのマイナス、債務超過等が挙げられる。財政破綻の可能性としては、重要な債務の不履行や返済の困難性、新たな資金調達が困難な状況、取引先からの与信の拒絶等が挙げられる。また、事業の継続に不可欠な重要な資産の毀損や権利の失効、重要な市場や取引先の喪失、巨額の損害賠償の履行、その他法令に基づく事業の制約等も考慮すべき事象や状況となると考えられる。いずれにせよ、このような事象や状況が存在する場合には、その旨、その内容、継続企業の前提に関する重要な疑義の存在、当該事象や状況に対する経営者の対応及び経営計画、当該重要な疑義の影響を財務諸表に反映しているか否か等について、財務諸表に注記を義務づけていくことが必要である。

一方、企業活動の継続が損なわれるような重要な事象や状況は突然生起することは稀であり、財務諸表の注記が行われるまで何ら投資者に情報が開示されないことも問題であると考えられる。したがって、上記のような事象や状況につながる虞のある重要な事項については、有価証券報告書や営業報告書等において適切に開示されることが求められる。

7 情報技術(IT)の利用と監査の対応について

企業における情報技術の利用は監査実務にも大きな影響を与えている。特に、監査対象の財務諸表の基礎となる会計情報を処理するシステムが情報技術を高度に取り入れたものである場合は、監査の実施に当たって、統制リスク等の各種のリスク評価に大きく関係する。また、企業が利用している情報技術とシステムに関する十分な知識と対応できる技術的な能力の保持が監査人に求められるという意味で、監査人自身にとってもその責任の履行上、重要な影響が生じることとなる。

改訂基準では、このような状況を背景にして、企業における情報技術の利用に対応したいくつかの措置を講じているが、これも基本的な指示に止まっており、より技術的な指示は日本公認会計士協会の指針において設けられる必要がある。

8 実施基準に関わるその他の改訂事項

(1) 監査計画の充実

監査計画を策定することの重要性については、これまでも「監査基準」で指示されてきたところであるが、リスク・アプローチのもとでは、各リスクの評価と監査手続、監査証拠の評価ならびに意見の形成との間の相関性が一層強くなり、この間の一体性を維持し、監査業務の適切な管理をするために監査計画はより重要性を増している。改訂基準では、これらの点に鑑み、リスク・アプローチに基づいた監査計画の策定のあり方を指示した。

(2) 監査要点と監査証拠

監査要点とは、財務諸表の基礎となる取引や会計事象等の構成要素について立証すべき目標であり、実施基準において、実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性等を挙げるとともに、監査要点に適合した十分かつ適切な監査証拠を入手することを求めている。なお、監査要点は、監査を受ける企業の業種、組織、情報処理システムなどに対応して監査人が自らの判断で設定することが基本となる。

(3) 監査手続

改訂前の「監査基準」においては、監査人が自己の意見表明の合理的な基礎を得るために必要と認めて実施する監査手続として「通常実施すべき監査手続」という概念を用いたが、この表現は、あたかも定型的な監査手続の組み合わせとその適用方法があるかのような誤解を与えることもあるので、使用しないこととした。また、監査手続については、改訂前の「監査実施準則」で、実査、立会、確認、質問、視察、閲覧、証憑突合、帳簿突合、計算突合、勘定分析、分析的手続等として個々の監査の手法を列挙していた。しかし、改訂基準では監査手続を、統制リスクを評価するために行う統制評価手続と監査要点の直接的な立証のために行う実証手続という概念に区分した上で、監査人が選択する具体的な監査の手法の例示は削除した。重要な監査の手法については、日本公認会計士協会が指針において、その種類や適用方法を明確にすることが必要である。

(4) 会計上の見積りの合理性

新たな会計基準の導入等により、会計上の認識・測定において、従来にも増して経営者の見積りに基づく要素が重要となってきている。改訂基準では、会計上の見積りの合理性について、監査人自身も、十分かつ適切な監査証拠を入手して判断すべきことを指示し、そのために、経営者が行った見積りの方法の評価ばかりでなく、その見積りと監査人自身の見積りや決算日後に判明した実績とを比較したりすることが必要となる場合もあることを明記している。

(5) 経営者からの書面による確認

改訂前の「監査実施準則」における経営者確認書の入手は、それ自体が監査手続の一部を構成するものであるかが曖昧であるとの指摘があり、また、監査人が必要と認めた事項について経営者から書面により陳述を得ることが本来の趣旨であることから、経営者確認書という固定的なものとしてではなく、経営者からの書面による確認を監査手続として明確に位置付けた。したがって、必ずしも経営者からの書面による確認を監査の終了時に限るものではなく、監査人の判断により、適宜、適切に行うことになる。

(6) 他の監査人の監査結果の利用

企業活動の国際化・多角化及び連結対象会社の増加による監査範囲の拡大に伴い、他の監査人の監査の結果を利用する範囲も拡大することから、主たる監査人と他の監査人との責任のあり方についての議論があるが、改訂基準では従来の考え方を変更していない。すなわち、他の監査人の監査の結果を利用する場合も、監査に関わる責任は主たる監査人が負うものであり、報告基準においても他の監査人の監査の結果を利用した場合に特別の記載を求めることはしていない。

なお、監査範囲の大半について他の監査人の監査の結果を利用しなければならない場合には、実質的には他の監査人が監査を行うという結果となることから、監査人として監査を実施することについて、監査契約の締結の可否を含めて慎重に判断すべきである。

9 監査意見及び監査報告書

我が国の監査実務を国際的に遜色のないものとすることは改訂の目的の一つであり、監査報告書の書式の改訂もその一環である。また、近年、監査を巡る社会の関心が高まるなかで、監査がどのように行われ、またいかなる判断が監査人により行われ、その結果としていかなる意見が表明されるかについて、これまで必ずしも社会的な理解が得られていたとは言えない。このような事情を背景として、改訂基準では、自己の意見を形成するに足る合理的な基礎を得て意見を表明することを報告基準においても明確にした。また、改訂前の「監査実施準則」では「適当な審査機能を備えなければならない」との表現をしていた点について、監査の質の管理の一環として設けられる審査機能を踏まえ、報告基準では意見の表明に先立ち審査を受けなければならないことを明確にし、さらに、次のように監査報告に関する抜本的な改訂を行った。

(1) 適正性の判断

①監査意見の形成と表明に当たっての監査人による判断の規準を示すことに重点を置いた。これまでの「監査基準」や「監査報告準則」が監査報告書の記載要件を示すことを重視していた点、ならびに、結果として、会計基準への準拠性、会計方針の継続性及び表示方法の基準への準拠性という、適正である旨の意見表明に関する従来の三つの記載要件が、ともすれば形式的な監査判断に陥らせるものとなりがちであった点を改め、改訂基準は、監査人が意見を形成するに当たっての判断の規準を示すことを重視している。

②監査人が財務諸表の適正性を判断するに当たり、実質的に判断する必要があることを示した。監査人は、経営者が採用した会計方針が会計基準のいずれかに準拠し、それが単に継続的に適用されているかどうかのみならず、その会計方針の選択や適用方法が会計事象や取引の実態を適切に反映するものであるかどうかを判断し、その上で財務諸表における表示が利用者に理解されるために適切であるかどうかについても評価しなければならない。

③会計方針の選択や適用方法が会計事象や取引の実態を適切に反映するものであるかの判断においては、会計処理や財務諸表の表示方法に関する法令又は明文化された会計基準やその解釈に関わる指針等に基づいて判断するが、その中で、会計事象や取引について適用すべき会計基準等が明確でない場合には、経営者が採用した会計方針が当該会計事象や取引の実態を適切に反映するものであるかどうかについて、監査人が自己の判断で評価しなければならない。また、会計基準等において詳細な定めのない場合も、会計基準等の趣旨を踏まえ、同様に監査人が自己の判断で評価することとなる。新しい会計事象や取引、例えば、複雑な金融取引や情報技術を利用した電子的な取引についても、経営者が選択し、適用した会計方針がその事象や取引の実態を適切に反映するものであるかどうかを監査人は自己の判断で評価しなければならない。

なお、財務諸表において収益の認識等の重要な会計方針が明確に開示されることも必要である。

(2) 監査報告書の記載

①監査報告書は、基本的に、監査の対象、実施した監査の概要及び財務諸表に対する意見という三つの区分に分けて記載することとした。監査の対象には、いわゆる二重責任の原則についても記述することを明記した。また、監査の概要に関する記述を国際的な監査基準に合わせて、より詳細なものとし、監査が試査を基礎として実施されることや経営者によって行われた見積りの評価も含まれることなどを明記し、監査の内容に関する利用者の理解を促すようにした。

②監査範囲の制約を受けた場合の意見表明のあり方を含め、監査人の意見がいかなる規準で形成され、表明されるかを示した。特に、意見を表明しない場合と不適正意見の場合だけでなく、除外事項を付した限定付適正意見の位置付けも明確にした。さらに、訴訟に代表されるような将来の帰結が予測し得ない事象や状況が生じ、しかも財務諸表に与える当該事象や状況の影響が複合的で多岐にわたる場合(それらが継続企業の前提にも関わるようなときもある)に、入手した監査証拠の範囲では意見の表明ができないとの判断を監査人が下すこともあり得ることを明記したが、基本的には、そのような判断は慎重になされるべきことを理解しなければならない。

③継続企業の前提に関わる問題については、前述のとおり、監査人の意見表明についての判断の規準と監査報告書において記載すべき事項を示した。

(3) 追記情報

①監査人による情報の追記について示した。本来、意見表明に関する監査人の責任は自らの意見を通しての保証の枠組みのなかで果たされるべきものであり、その枠組みから外れる事項は監査人の意見とは明確に区別することが必要である。このように考え方を整理した上で、財務諸表の表示に関して適正であると判断し、なおもその判断に関して説明を付す必要がある事項や財務諸表の記載について強調する必要がある事項を監査報告書で情報として追記する場合には、意見の表明と明確に区分し、監査人からの情報として追記するものとした。具体的には、監査報告書の基本的な三つの区分による記載事項とは別に記載することとなる。したがって、除外すべき事項を追記情報として記載することはできない。これに関連して、監査人の意見との関係が曖昧であるとの指摘もある特記事項は廃止した。

②監査意見からの除外事項及び追記する情報に関連して、従来、除外事項とされていた正当な理由による会計方針の変更は、不適切な理由による変更と同様に取り扱うことは誤解を招くことから、除外事項の対象とせずに、追記する情報の例示としたが、会計方針の変更理由が明確でないものがあるとの指摘もある点を踏まえ、監査人には厳格な判断が求められることは言うまでもない。また、この改訂に伴い、会計基準の変更に伴う会計方針の変更についても、正当な理由による会計方針の変更として取り扱うこととすることが適当である。なお、会計方針の変更があった場合における財務諸表の期間比較の観点からは、変更後の会計方針による過年度への影響に関する情報提供についても、財務諸表の表示方法の問題として検討することが必要である。

③追記する情報には、監査報告書を添付した財務諸表を含む開示情報と財務諸表の記載内容との重要な相違を挙げているが、これは、財務諸表と共に開示される情報において、財務諸表の表示やその根拠となっている数値等と重要な相違があるときには、監査人が適正と判断した財務諸表に誤りがあるのではないかとの誤解を招く虞があるため、追記する情報として例示した。

(4) 監査報告書の日付及び署名

監査報告書の日付は、後発事象の範囲等も含め監査人の責任に関わる重要な事項である。したがって、監査人が自らの責任において監査が終了したと判断したときに監査報告書を作成することが基本であると考えられる。しかし、これは、財務諸表の開示制度上あるいは監査の終了をどう捉えるか等の問題であり、改訂基準においては特定の時点を示すことはしなかった。

また、個人名や捺印が必要か否か、あるいは監査事務所などの名称のみの記載が適切か否かという問題は、むしろ、監査に関わる責任主体についての法律的あるいは制度的な問題であり、監査基準には馴染まないものと考えられることから、改訂基準においては監査人の具体的な記名方法を示すことはしなかった。

四 実施時期等

1 改訂基準は、平成15年3月決算に係る財務諸表の監査から実施する。なお、改訂基準の実施に当たり、関係法令において、改訂基準に基づく監査報告書の記載事項、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況に関する注記事項等について所要の整備を行うことが適当である。

2 監査基準は、すでに述べたとおり、日本公認会計士協会の指針と一体となって一般に公正妥当と認められる監査の基準を形成するものである。したがって、改訂基準を実務に適用するに当たっては、監査人に対してより具体的な指示が明確にされることが必要であり、日本公認会計士協会において、関係者とも協議の上、早急に、改訂基準を実施するための具体的な指針を作成することが要請される。さらに、経済社会の変化が著しい状況において、国際的にも監査実務が高度化されていくと考えられることから、国際的な動向も踏まえ、具体的な指針について柔軟に見直しを行っていくことが求められる。



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